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2024.08.27

日本監査研究会 監査研究 No.34 わが国におけるダイレクト・レポーティングの採用について他

こんにちは、丸山満彦です。

日本監査研究会の学会誌No.34が送られてきたのですが、今回は興味深い内容が多かったです。

まだ、学会の監査研究のウェブページにはNo.34の案内が掲載されていないのですが、No.34の内容は次のとおりです。

 


[特別講演]
・公認会計士法の改正と監査業務の質の向上/齊藤貴文

[全国大会および東西部会報告]
・解題わが国会計専門職の現状と将来展望一公認会計士と税理士に相克はあるのかー/八田進二
・独立性の観点から見た公会計士と税理士一会計専門職の制度的基盤(独立性を中心として)一/坂本孝司
・試験制度の視点から見た公認会計士と税理士/小俣光文
・わが国保証業務の拡張可能性/松本祥尚
・サステナビリティ情報の保証にあたっての課題を考える一公認会計士の立場から一/濵田善彦
・解題 内部統制報告制度の現在と課題/蟹江章
・内部統制報告書の作成を巡る諸課題及びエンフォースメント/兼田克幸
・非財務情報の報告に係る内部統制の課題/岡野泰掛

[査読論文]
・内部監査の組織内における位置付けに関する研究一最高経営者と内部監査の関係の視点から一/蓮沼利建
・サステナビリティ情報保証の業務実施者に求められる要件/藤原英賢
・わが国におけるダイレクト・レポーティングの採用について/中村元彦

*
全国大会,東西部会の報告者・報告論題等一覧
年度 監査研究の動向/堀古秀徳
年度「岩田・渡邊賞」、「監査研究奨励賞」および「監査教育貢献賞」
審査結果報告/町田祥弘


 

特に私としては、

解題 内部統制報告制度の現在と課題/蟹江章

わが国におけるダイレクト・レポーティングの採用について/中村元彦

の2つが興味をひきました。いわゆるJ-SOXが始まって15年以上がたち、いろいろと課題が見えてきたところで、昨年制度改正がありましたね...

制度課題の1つが、日本独特のインダイレクト方式をやめて米国と同じダイレクトレポーティング方式に変えた方が良いのではないかという話でした。しかし、結果的に今回の改正では先に送りにされ、今後の課題とされ、改正はされませんでした。ということもあり、論文が出てきているところのだろうということです...

 

ということで、今回は、ダイレクトレポーティング方式を採用せずに、インダイレクト・レポーティング方式(言明方式)を採用した当時の理由を探りたいと思います...

 

● 蟹江先生論文では、

・実施にかかるコストや労力の大きさ

・経営者の財務情報の作成責任(信頼性の確保)に対する認識の改善

と初めのほうで説明されているが、後半では、


日本でダイレクト・レポーティング方式が採用されなかった理由としては、次の2点が指摘されている(八田・町田[2007])

(1) ダイレクト・レポーティング方式による内部統制監査実務が、監査人の責任意識を背景として、アメリカ企業社会においても禁止的ともいえるような課題な費用負担をもたらしたこと

(2) 内部統制の評価結果に対する監査と別枠で直接的な監査が行われるというのは、無駄も多く、また、そのことによって内部統制の有効性が高まるという効果は見出せないという企業側の実態を踏まえていること。

(3) 経営サイドでの内部統制評価とは別の視点で監査人サイドだけのチェックポイントを抽出して、直接に監査していくという流れは、おそらく不正摘発型の抜き打ち的な監査手法にも似ていること。

新しい制度を導入するに当たって、主に受け入れ側である企業の負担に配慮した理由であり、内部統制報告制度のスムーズな導入を図ったものと考えられる。


 

● 中村元彦論文では


1. 企業会計審議会における議論

内部統制報告制度の導入において、企業会計審議会 [2005]では、米国がおこなっているような、監査人が直接内部統制の有効性を検証し報告する方法(ダイレクト・レポーティング)をどう考えるかという論点に対して、米国の企業改革法では、監査人が直接に内部統制の有効性を検証し、非常に保守的となっていることが、企業に過度のコスト負担を敷いているとの指摘があるとしている。そして、企業会計審議会 [2007 5頁] において、評価・監査に係るコスト負担が課題なものとならないよう、先行して制度が導入された米国における運用の状況等も検証し、具体的な方策の一つとして、ダイレクト・レポーティングの不採用を示している。

2023年における改訂時の議論であるが、表1が第レクタオ・レポーティングに関する議論の主なものである。議論において、①コストの問題ととともに、②監査人のリソース、さらに③法律的な製薬があるとしている。特に、①と②は今回の改訂において、ダイレクト・レポーティングが採用されたに理由となっている。また、メリットに関しては現状での問題点として発言がなされているが、深い議論には繋がっておらず、今後に関して、様々なメリット(ベネフィット)とデメリット(コスト増など)があるため、この点については、よく検討する時間を費やしたほうがいいとの発言がなされている。

2 研究者における見解

日本においてダイレクト・レポーティングが採用されなかった理由として、八田 [2006 110-111頁] は、第一にダイレクト・レポーティングが導入されると、全ての取引や活動を吟味することが求められるため、監査業務やコストが際限なく増える恐れがあることを挙げている。社内で横領があった時、横領があったという事実そのものが問題視され、どこまでを監査するかといった監査範囲が絞れ込まれていないと、監査項目やコスト (9) が際限なく膨らむことが0時されている。そして、ダイレクト・レポーティングそ導入するのであれば、これまでの財務諸表監査とは全く違った監査の枠組みを構築し、監査人の責任範囲の明示が必要としている。第二として、監査人と企業との関係が大きく変わってしまう可能性があることをあげている。ダイレクト・レポーティングを導入するのであれば、これまでの財務諸表監査とは全く違った監査の枠組みを構築し、監査人の責任範囲の明示が必要としている。第二として、監査人と企業との関係が多く変わってしまう可能性があることを挙げている。ダイレクト・レポーティング方式ど導入すると、どこまで取り組めばよいのかという基準を示した上で、それでできているかどうかを検証する「不正摘発型の監査」 になってしまう恐れがあるとしている。

第一の点及び第二の点は、コストの増加につながることになる。また、八田ほか [2007, 38, 40頁] において、八田は今回の制度設計にあたっての要請事項の1つとして、ある程度コスト効率の良い制度を構築しなければならないとし (10) 制度作りの観点からの対応ということが述べられている。制度というのは、少なくとも市場に関わっている関係当事者のその時点における合意形成で受け入れられるべきものであり、これで問題があるならば、見直し等が求められるとしており、ダイレクト・レポーティングに関しても同様と考える。表1でさまざまなメリット(ベネフィット)とデメリット(コスト増など)の検討が示唆されているが、合意形成のためにはこの検討は十分におこなわれる必要があると考える。

町田 [2011, 397-400頁]は、評価・監査に係るコスト負担が過大なものとならないという、ダイレクト・レポーティングをコスト負担の観点から採用しないことを述べると共に、関連して第一として、内部統制報告書において表明される評価範囲に対する保証が必要と考えられた点、第二に会計士法制の問題、第3に監査人が保守的傾向をとるおそれをあげている。第一に関しては、当初は、企業ごとに内部統制の評価方法や評価範囲をある程度自由かつ詳細に記載することが期待されたことが背景にある。また、第二に関しては、公認会計士法2条1項業務であるかの問題が生じ、法改正の必要性につながること、第3に関しては、監査人に対して、業務において保守的な対応をとらせ、必要以上の監査証拠の入手や監査判断自体の過度な厳格化を招くのではないかという懸念が述べられている。


という説明がありますね...

要は

・ダイレクト・レポーティング方式が、インダイレクト・レポーティング方式(言明方式)よりも経営者評価+監査コストがかかる

ので、経営者はそれを嫌がり、インダイレクト・レポーティング方式でコストを下げたから、、、ということで、経営者に納得してもらい、導入を決めた。

ということなのでしょうね...

ちなみに、表1


<ダイレクト・レポーティング導入時の問題点>

①コスト増加について
・現在の実務では、業務プロセスの評価は会社のサンプリングを利用する実務が多いが、ダイレクト・レボーティングの導入になるとサンプリングの利用もしないということで、コストは増加する
・現在の実務では、全社統制については、会社が評価したものを監査人が評価するということになるが、ダイレクト・レポーティングの導入になると監査人が別に確認することになるので、コストが増加する

②監査人のリソース問題
・監査人の内部統制評価にダイレクト・レポーティングを採用する場合には、監査人の工数が増加するということで、現在、監査法人側のリソースが通迫している状態のため、すぐの対応は困難

③法律上の制約
・ダイレクト・レポーティング。特に財務諸表監査の中に内部統制の評価を盛り込むことについては、法制度を変えない。法律規定を変えないという前提での制度改訂では、難しい(金融商品取引法の193条の2の第2項の問題)

<今後の検討へのコメント>
・ダイレクト・レポーティングには、様々なメリットとデメリットがあるため、この点については、よく検計する時間を費やしたほうがいいのではないか
・限界的なコスト増と、それによってもたらされるベネフィット、この評価というのをしっかり検討していくべきではないか

出所:企業会計審議会[2022a:2022c]に基づいて筆者作成。


 

しかし、どう考えても論理的には、インダイレクト・レポーティング方式がコスト的に有利ということが言えないにも関わらず、大人の事情?でそう言い切ってしまったことが不幸の始まりだったように思います...

 

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まるちゃんの情報セキュリティ気まぐれ日記

・2023.04.08 金融庁 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」の公表について

・2008.08.14 公認会計士協会 パブコメ 監査・保証実務委員会研究報告「公認会計士等が行う保証業務等に関する研究報告」

2008.02.13 米国では、小規模公開会社へのSOX法404条の適用が1年延長されるかもなのですが・・・

2008.02.08 実施基準に書かれていないことは監査人の判断しだい?

・2008.01.16 内部統制報告書の記載項目と、内部統制報告書に重要な虚偽表示がないかどうかの合理的な保証を求める監査。。。

・2007.07.28 内部統制報告書の監査って、経営者評価手続きをする前に監査手続きはできへんよな。。。

・2007.07.26 PCAOB’s New Audit Standard for Internal Control Over Financial Reporting (AS No.5) is Approved by the SEC

・2007.07.21 CIAフォーラム研究会 「~米国SOX 法404 条の教訓を踏まえた~JSOX への対応アプローチ」を公表

・2007.07.13 現場感覚 ダイレクトレポーティングのほうが経営者の負担は少ないんじゃないの?

・2007.05.25 PCAOB 監査基準書第5号が承認されましたね。。。

・2007.05.09 あずさ監査法人 財務報告に係る内部統制について

・2007.04.30 学者もわからない?内部統制監査の意見形成論(ダイレクトレポーティングの不採用)

・2006.12.30 弦巻ナレッジネットワークの「「日本版404条」審議過程の検証」は興味深いです。。。

・2006.12.29 米国の費用対効果分析によると日本の方法は費用がかかる?

・2006.12.20 PCAOB 監査基準書第2号(公開草案)公表

・2006.12.20 全銀協 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(公開草案)」へのコメント

・2006.12.08 PCAOB 監査基準書第2号の改訂公開草案の公開は12月19日

・2006.12.02 米国 内部統制評価と監査制度 負担の緩和

・2006.11.15 実施基準(2006.11.06部会資料) に対する様々な反応

・2006.11.02 実施基準では、100項目のQ&Aを示したり、対象となる財務報告の範囲を示したりするが、「特に米国の監査事情に精通している人ほど、違和感を持つかもしれない」らしい・・・

・2006.09.06 監査がダイレクトレポーティング方式でも言明方式でも経営者評価の手間は関係ない

2006.08.09 内部統制部会議事録等

・2006.08.06 監査人が「内部統制は有効であると監査意見を述べる場合」と「内部統制は有効であるという報告書の内容が適正であるという監査意見を述べる場合」の監査対象(保証又は証明対象)の違い

・2006.07.21 実施基準で検討することになっていること(3)財務報告に係る内部統制の監査篇

・2006.07.21 実施基準で検討することになっていること(2)財務報告に係る内部統制の評価及び報告篇

・2006.06.02 参議院 財政金融委員会の議事録を読んで

・2006.04.21 ダイレクトレポーティング方式と言明方式で監査コストが異なるのか

・2006.04.19 米国が内部統制監査報告書においてダイレクトレポーティング方式を採用した理由

・2006.03.11 日本の保証基準

 

 

・2006.11.10 実施基準(2006.11.06部会資料) 持分法適用となる関連会社も評価範囲を決定する際の対象に含まれる!

・2006.11.07 実施基準案 (11月6日内部統制部会)

・2006.11.05 日経 金融庁、内部統制ルールで監査の基準案

・2006.11.02 実施基準では、100項目のQ&Aを示したり、対象となる財務報告の範囲を示したりするが、「特に米国の監査事情に精通している人ほど、違和感を持つかもしれない」らしい・・・

・2006.09.16 IT全般統制が有効に機能していなければIT業務処理統制の有効性は保証できないのか・・・

・2006.09.06 監査がダイレクトレポーティング方式でも言明方式でも経営者評価の手間は関係ない

・2006.08.17 SAS70、監査基準委員会報告書第18号

・2006.08.06 監査人が「内部統制は有効であると監査意見を述べる場合」と「内部統制は有効であるという報告書の内容が適正であるという監査意見を述べる場合」の監査対象(保証又は証明対象)の違い

・2006.08.06 経営者評価を期末日現在にした理由

・2006.08.01 内部統制が有効であるということ

 

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