防衛省 防衛研究所 中国安全保障レポート2024 -中国、ロシア、米国が織りなす新たな戦略環境-
こんにちは、丸山満彦です。
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・2023.11.24 中国安全保障レポート2024
・中国安全保障レポート2024 -中国、ロシア、米国が織りなす新たな戦略環境- (本文)·(表紙·奥付)
目次...
中国安全保障レポート2024
目次
要約
略語表
序章
第 1 章 既存秩序の変革を目指す中国の戦略
はじめに
1 協調から対抗へ転換した中国の対米政策
(1)冷戦後の国際秩序に協調姿勢で適応
(2)対米対抗と既存秩序の変革に向けた動き
2 国際秩序をめぐってロシアとの連携を強める中国
(1)ライバルからパートナーへの転換
(2)既存秩序の変革に向けた協力の深化
3 米国への軍事的対抗姿勢を強める中国
(1)軍事における対米対抗とロシアとの連携強化
(2)対米抑止力の強化を目指した核戦力の増強
おわりに
第 2 章 ロシア・ウクライナ戦争とプーチン体制の生存戦略
はじめに
1 プーチン体制の生存戦略
(1) 2020 年憲法改革と「インナー・サークル」の生存戦略
(2)プーチン体制と個人支配化をめぐる議論
2 ウクライナ戦争下におけるプーチン体制の変容と生存戦略としての対外政策
(1)体制変容のダイナミズム
(2)新たな「対外政策概念」と「狭小な国家グループ」への挑戦
(3)軍事・原子力・北極海における中露の体制間協力
(4)ロシアと「グローバル・サウス」
おわりに
第 3 章 国際秩序の維持に向けた米国の軍事戦略
はじめに
1 中国、ロシアに対する脅威認識の高まり
(1) 大国間競争の再来
(2)戦略的競争において浮上する 3 つの軍事的課題
2 新たな軍事的課題に対する米軍の取り組み
(1) 作戦行動に対する認識の変化
(2)将来戦に関する取り組み
3 将来的な核戦力バランスの変化
(1) 「同格の二大核保有国」問題の浮上
(2)バイデン政権の対応
おわりに
終章
注
要約
第1章 既存秩序の変革を目指す中国の戦略
冷戦終結直後の中国は、米国を共産党に対する脅威と見ており、米国との対立を避けつつ協力を推進することで対米関係の安定化を図った。米国が主導する冷戦後の国際秩序についても基本的に受け入れ、協調を主軸とした国際秩序戦略を推進した。ところが2000年代終わりごろから、西側諸国のパワーが低下し、発展途上国のパワーが増大しているとの情勢認識に至った共産党政権は、既存の国際秩序について力を背景に「核心的利益」を確保することを可能とするとともに、中国共産党による支配体制が脅威にさらされない方向への変革を目指すようになった。
習近平政権は、米国に中国の「核心的利益」を尊重し、中国を対等に扱う「新型大国関係」を受け入れるよう要求した。同時に、普遍的価値とルールに基づいた既存の国際秩序を明確に拒否し、中国を中心とした発展途上国がより大きな発言力を持つ「新型国際関係」と「人類運命共同体」を新たな国際秩序のモデルとして推進するようになった。その中国にとって、ロシアは望ましい国際秩序を共有する重要なパートナーである。国際秩序をめぐる米国や西側諸国との競争において、中国とロシアは相互の支持と協力を強化している。
米国に対抗し、米軍が主導してきた東アジアの安全保障秩序の変革を目指して、中国はA2/AD能力を中心とした軍事力の強化を進めている。中国は周辺地域において、米軍の行動を物理的に妨害するとともに、ロシア軍との共同訓練や連携した行動を強化している。中国は核戦力も急速に強化しており、これは将来の核をめぐる安全保障秩序における中国の発言力を高めるとともに、中国の「核心的利益」に関わる紛争に対して、米国が軍事的に関与するハードルを高めることになるだろう。今後中国は、核を含む軍事力を強化しつつ、望ましい国際秩序を共有するロシアとの戦略的協力を深化させることで、既存の国際秩序の改変を進めていくことになると思われる。
第2章 ロシア・ウクライナ戦争とプーチン体制の生存戦略
2022年2月24日、プーチン体制は、ウクライナへの全面的な軍事侵攻に踏み切り、米欧諸国による厳しい経済制裁と広く国際的な信用の失墜を招いた。既存の国際秩序に対する挑戦者となったプーチン体制の秩序観には、G7諸国が志向する国際秩序への強い対抗意識があり、この点は2023年3月に改訂された「ロシア連邦対外政策概念」の中で強調されている。こうした対抗意識の根底には、冷戦後国際秩序の再編プロセスに対する不満の蓄積がある。また、プーチン体制には、ロシアの伝統的な精神・道徳的価値観や独自の歴史観を偏重する態度、さらには多様性や包摂性に代表される米欧のリベラルな価値観や市民社会の在り方への嫌悪感が観察要約序章第1章第2章第3章終章4される。特に近年、それらは政治体制の個人支配化の進展とも相まって、プーチン体制の国内的な体制の生存戦略として増幅される傾向にあった。
こうした秩序観は、現代ロシア政治・外交史の多様な文脈の中で生成されたものであるが、その1つとして、市民的自由の制約や立憲主義の不在、個人支配化に象徴されるロシア内政動向との連関も指摘できよう。同じく政治体制として個人支配化の様相を強める中国の習近平体制との親和性は高まる傾向にあり、第2次ロシア・ウクライナ戦争に伴うロシアの対中依存の深まりも影響して、中露の体制間協力は、プーチン体制の対外的な生存戦略として位置付けられている。中露関係は、軍事・原子力・北極圏開発といった政策分野で着実に深まりつつある。
さらに戦時下のプーチン体制は、インドやトルコをはじめとするグローバル・サウスと呼ばれる新興国・途上国との連携強化を目指しており、上海協力機構(SCO)やBRICS加盟国、中東・アフリカ諸国など、政治体制の観点から親和性の高い国々への外交的・軍事的アプローチが積極的に行われている。
第3章 国際秩序の維持に向けた米国の軍事戦略
バイデン政権が最大の挑戦としてとらえているのが中国である。NSS2022は、中国が「米国にとって最も重大な地政学的挑戦」であるとして、中国との競争に打ち勝つという方針を示した。軍事的観点からも、バイデン政権は中国を焦点としており、同国が主要な地域を支配するのを阻止することを最優先課題とした戦略を打ち出している。中国との軍事・外交分野における競争は、経済分野にも波及している。
ロシアに対しては、2014年以降継続しているウクライナへの侵略だけでなく、主要な地域における重大で継続したリスクを突き付ける「深刻な脅威」であるという認識を示している。バイデン政権は、ウクライナ侵略がロシアにとって「戦略的失敗」となることを政策目標として、北大西洋条約機構(NATO)をはじめとする同盟国やパートナー国と連携しながら、ウクライナに対する圧倒的な規模での安全保障支援を行う一方で、ロシアに対して経済制裁を科している。
中露との競争を優位に進めるうえで、米国が直面している軍事的課題とは、①武力紛争に至らない段階における活動、②米軍の戦力投射・作戦行動、キルチェーンに対する脅威、③将来的な核戦力バランスの変化、である。第1の課題に対して米軍は、「航行の自由作戦」や情報・サイバー空間での作戦行動に加え、あらゆる段階で米軍が一定の活動を行うことを示した「競争連続体モデル」という新たな概念枠組みを形成して対応している。第2の軍事的課題であるA2/ADおよび米軍のキルチェーンに対する脅威に関して、米軍は新たなコンセプトの開発を継続させている。第3の、米国と同等の核戦力を保有する中国とロシアに同時に対峙するという、将来的な「同格の二大核保有国」問題に対して、バイデン政権は米国の抑止力の強化と軍備管理による核使用リスクの低減に取り組む姿勢を示している。
バイデン政権は、今後の10年間の取り組みが将来的な国際秩序の姿を左右すると認識しており、中国との競争を優位に進め、ロシアの脅威を抑制することを目標として、積極的に取り組む姿勢を強めている。国際秩序をめぐる中国やロシアとの競争は、今後も継続し激しさを増していくであろう。
終章
ロシアで急激な政治変動が生じない限り、今後10年程度の見通し得る将来において、国際秩序をめぐる米国と中露の対立は加速し、グローバル・サウスも巻き込みながら、米国を中心とした既存秩序の現状維持勢力と、中露を中心とした現状変更勢力の間の対立へと拡大していくだろう。双方が共に競争力を高めていくものと思われるため、帰趨はすぐには決まらず、対立は緊張の度を高めながら長期にわたって続くだろう。今後は偶発的な衝突や予期しないエスカレーションといった不安定要因の顕在化を防止するために、いかに競争を管理していくのかが双方に問われることになる。他方で、より長期的な観点に立った場合、ロシアによるウクライナ侵攻が国際秩序の変更に至る見込みは極めて小さい。一方で中国は、南シナ海や台湾海峡などで現状変更の既成事実を積み重ねている。今後、このような中国の力による一方的な現状変更を防止できるか否かが、国際秩序をめぐる競争の行方を決定づける最も重要な要因であるといえよう。
年度 | 副題 | 章 | テーマ |
2024 |
中国、ロシア、米国が織りなす新たな戦略環境 |
1 | 既存秩序の変革を目指す中国の戦略 |
2 | ロシア・ウクライナ戦争とプーチン体制の生存戦略 | ||
3 | 国際秩序の維持に向けた米国の軍事戦略 | ||
2023 |
認知領域とグレーゾーン事態の掌握を目指す中国 |
1 | 中国の軍事組織再編と非軍事的手段の強化 |
2 | 活発化する中国の影響力工作 | ||
3 | 海上で展開される中国のグレーゾーン事態 | ||
2022 |
統合作戦能力の深化を目指す中国人民解放軍 |
1 | 中国人民解放軍の統合作戦構想の変遷 |
2 | 改編された中国人民解放軍の統合作戦体制 | ||
3 | 軍改革における統合作戦訓練・人材育成体制の発展と党軍関係強化の模索 | ||
2021 | 新時代における中国の軍事戦略 | 1 | 情報化戦争の準備を進める中国 |
2 | 中国のサイバー戦略 | ||
3 | 中国における宇宙の軍事利用 | ||
4 | 中国の軍民融合発展戦略 | ||
2020 | ユーラシアに向かう中国 | 1 | 中国のユーラシア外交 |
2 | 中央アジア・ロシアから見た中国の影響力拡大 | ||
3 | ユーラシアにおけるエネルギー・アーキテクチャ | ||
2019 | アジアの秩序をめぐる戦略とその波紋 | 1 | 既存秩序と摩擦を起こす中国の対外戦略 |
2 | 中国による地域秩序形成とASEANの対応 ――「台頭」から「中心」へ | ||
3 | 「一帯一路」と南アジア――不透明さを増す中印関係 | ||
4 | 太平洋島嶼国 ――「一帯一路」の南端 | ||
2018 | 岐路に立つ米中関係 | 1 | 中国の対米政策 |
2 | 米国の対中政策 | ||
3 | 地域における米中関係の争点 | ||
2017 | 変容を続ける中台関係 | 1 | 中国の台湾政策の変遷 |
2 | 台湾から見た中台関係 | ||
3 | 米国にとっての台湾問題 | ||
4 | 中台関係の変容と「現状維持」 | ||
2016 | 拡大する人民解放軍の活動範囲とその戦略 | 1 | 遠海での作戦能力強化を図る中国海軍 |
2 | 空軍の戦略的概念の転換と能力の増大 | ||
3 | ミサイル戦力の拡充 | ||
4 | 統合的な作戦能力の強化 | ||
2014 | 多様化する人民解放軍・人民武装警察部隊の役割 | 1 | 中央国家安全委員会創設とその背景 |
2 | 人民武装警察部隊の歴史と将来像 | ||
3 | 人民解放軍による災害救援活動 | ||
4 | 軍事外交としての国連平和維持活動 | ||
5 | ソマリア沖・アデン湾における海賊対処活動 | ||
2013 | 1 | 中国の対外危機管理体制 | |
2 | 中国の危機管理概念 | ||
3 | 危機の中の対外対応 | ||
2012 | 1 | 「党軍」としての性格を堅持する人民解放軍 | |
2 | 深化する軍と政府の政策調整 | ||
3 | 軍と政府が連携を深める安全保証政策 | ||
4 | 政策調整の制度化を求める人民解放軍 | ||
2011 | 1 | 海洋に向かう中国 | |
2 | 南シナ海で摩擦を起こす中国 | ||
3 | 外洋に進出する中国海軍 | ||
4 | 対外園で発言力を増す人民解放軍 | ||
創刊号 | 1 | 中国の対外姿勢 | |
2 | 拡大する活動範囲 | ||
3 | 役割を増す軍事外交 | ||
4 | 進む装備の近代化 |
● まるちゃんの情報セキュリティ気まぐれ日記
・2022.11.28 防衛省 防衛研究所 中国安全保障レポート2023 ― 認知領域とグレーゾーン事態の掌握を目指す中国 ―
・2021.11.28 防衛省 防衛研究所 中国安全保障レポート2022 ― 統合作戦能力の深化を目指す中国人民解放軍 ―
・2020.11.14 防衛省 防衛研究所 「中国安全保障レポート2021 ― 新時代における中国の軍事戦略 ―」は中国のサイバー戦略についての章がありますね
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