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2020.11.14

防衛省 防衛研究所 「中国安全保障レポート2021 ― 新時代における中国の軍事戦略 ―」は中国のサイバー戦略についての章がありますね

こんにちは、丸山満彦です。

防衛省 防衛研究所は2009年から「中国安全保証レポート」を毎年出していますが、今年は「新時代における中国の軍事戦略 」ということで、「情報化戦争」、「サイバー戦略」、「宇宙の軍事利用」「軍民融合発展戦略」の4つですね。。。

● 防衛省 - 防衛研究所

・2020.11.13『中国安全保障レポート2021』を掲載しました。


第 1 章 情報化戦争の準備を進める中国
1 中国軍事戦略の変遷

1)毛沢東時代(1927 1976最終戦争の呪縛と積極防御
2)鄧小平時代(1976 1989最終戦争からの脱却と局地戦争への移行
3)江沢民時代(1989 2004ハイテク条件下での局地戦争
4)胡錦濤時代(2004 2012情報化条件下での局地戦争

2 習近平時代(2012 ~)―情報化戦争、智能化戦争への転換
1)情報化戦争
2)智能化戦争

コラム 情報化戦争・智能化戦争と親和性が高い超限戦

第 2 章 中国のサイバー戦略
1 サイバー戦力の向上を図る中国

1)「情報化」建設を進める人民解放軍
2)戦略支援部隊の任務と組織

2 人民解放軍のサイバー戦に係る認識
1)情報化戦争におけるサイバー作戦
2)人民解放軍のサイバー戦の諸相
3)中国のサイバー戦力の課題と今後の方向性

3
 サイバーセキュリティをめぐる中国の対外行動とその反応
1)サイバー・ガバナンスをめぐる中国の取り組み
2)サイバー空間をめぐる米中関係

第 3 章 中国における宇宙の軍事利用
1 宇宙政策と国防政策の関係

1)宇宙活動の長期目標と軍の位置付け
2)国防政策と部隊運用における宇宙の位置付け

2
 宇宙活動の現状とその軍事的意味合い
1)宇宙システムの運用
2)宇宙利用妨害能力の整備
3)宇宙分野における軍民融合

3 宇宙領域をめぐる国際関係
1)米国との関係
2)そのほかの国際関係

第 4 章 中国の軍民融合発展戦略
1 中国における軍民関係の史的展開

1)改革開放期までの軍民関係
2)改革開放期の軍民関係

2
 習近平政権における軍民融合発展戦略
1)習近平政権の軍民融合の背景
2)軍民融合の政策制度システム
3)軍民融合の組織管理システム
4)軍民融合の業務運用システム
5)軍民融合が直面する課題

3 軍民融合発展戦略に対する国際社会の反応
1)軍民融合による技術移転の懸念
2)欧米における投資規制策の強化

 


年度 副題 テーマ
2021 新時代における中国の軍事戦略 1 情報化戦争の準備を進める中国
2 中国のサイバー戦略
3 中国における宇宙の軍事利用
4 中国の軍民融合発展戦略
2020 ユーラシアに向かう中国 1 中国のユーラシア外交
2 中央アジア・ロシアから見た中国の影響力拡大
3 ユーラシアにおけるエネルギー・アーキテクチャ
2019 アジアの秩序をめぐる戦略とその波紋 1 既存秩序と摩擦を起こす中国の対外戦略
2 中国による地域秩序形成とASEANの対応 ――「台頭」から「中心」へ
3 「一帯一路」と南アジア――不透明さを増す中印関係
4 太平洋島嶼国 ――「一帯一路」の南端
2018 岐路に立つ米中関係 1 中国の対米政策
2 米国の対中政策
3 地域における米中関係の争点
2017 変容を続ける中台関係 1 中国の台湾政策の変遷
2 台湾から見た中台関係
3 米国にとっての台湾問題
4 中台関係の変容と「現状維持」
2016 拡大する人民解放軍の活動範囲とその戦略 1 遠海での作戦能力強化を図る中国海軍
2 空軍の戦略的概念の転換と能力の増大
3 ミサイル戦力の拡充
4 統合的な作戦能力の強化
2014 多様化する人民解放軍・人民武装警察部隊の役割 1 中央国家安全委員会創設とその背景
2 人民武装警察部隊の歴史と将来像
3 人民解放軍による災害救援活動
4 軍事外交としての国連平和維持活動
5 ソマリア沖・アデン湾における海賊対処活動
2013   1 中国の対外危機管理体制
2 中国の危機管理概念
3 危機の中の対外対応
2012   1 「党軍」としての性格を堅持する人民解放軍
2 深化する軍と政府の政策調整
3 軍と政府が連携を深める安全保証政策
4 政策調整の制度化を求める人民解放軍
2011   1 海洋に向かう中国
2 南シナ海で摩擦を起こす中国
3 外洋に進出する中国海軍
4 対外園で発言力を増す人民解放軍
創刊号   1 中国の対外姿勢
2 拡大する活動範囲
3 役割を増す軍事外交
4 進む装備の近代化

 

要約のうち第1章と第2章を引用すると

 


第 1 章 情報化戦争の準備を進める中国

中国において現在まで一貫して採用されている「積極防御」の軍事戦略の内実は、毛沢東をはじめとする各時期の共産党指導者が軍を指導していく過程で、徐々に先制攻撃を重視するようになっている。毛沢東時代の「積極防御」は、攻撃を受けてから反撃するという「後発制人」を前提とした。鄧小平時代になると、通常兵器を使用した局地戦争が戦略レベルに引き上げられ、積極防御戦略は局地戦争の持つ先制攻撃概念も内包するようになった。江沢民時代は、「ハイテク条件下での局地戦争」における勝利を目指したが、胡錦濤時代に差し掛かる頃には、戦争における情報の重要性が認識され、「情報化条件下での局地戦争」の勝利が目指された。そこで強調されたのは先制攻撃の重要性の高まりであった。

習近平政権になると、宇宙・サイバー・電磁波といった新領域を効果的に運用した情報化戦争における勝利が志向されるようになる。この戦争は軍種や兵種の境界を取り払って統一指揮される軍隊が、人間の判断によって物理的対象を攻撃する。さらに、智能化戦争の段階に至ると、指揮や戦略方針を決定する際に人工知能やゲーム理論を利用し、相手の正確な意図を分析・判断して指揮官に提供するという、人と機械が一体化した指揮システムが構築され、攻撃対象も物理的対象に加えて、サイバー空間や認知空間といった非実体的なものが含まれるようになる。

 

第 2 章 中国のサイバー戦略

人民解放軍は、情報の支配を意味する「制情報権」が現代の戦争で核心的主導権を握るうえで重要との認識を持ち、自身の情報化を進めるとともにサイバー戦略を発展させてきた。この過程で 2015年末に新設された戦略支援部隊は、「制情報権」の掌握に加え、宇宙・サイバー・電磁波領域を含めた統合作戦のための情報支援、先端技術の軍事力転化などを担うとみられる。

また、人民解放軍は「制情報権」を掌握するために、平時からの情報戦や情報窃取を目的とするサイバー作戦や、戦争初期の段階で機先を制するサイバー攻撃を重視している。

他方で、人民解放軍は、自身の情報化を進める中で、軍事作戦において情報システムへの依存を深めるとともに、情報産業においても外資導入を進めた結果、安全保障上の脆弱性を抱える現状に危機感を強めている。こうした課題に対処するために人民解放軍は、サイバー分野における核心技術の国産化と専門人材の育成を図っている。また、中国政府は「制情報権」の観点から、自国が主導する形でのサイバー空間に係る国際規範と国際標準の拡大を目指しているが、こうしたサイバー空間における中国の活発な取り組みは、米国からの厳しい警戒と対応を招いている。


 

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