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2020.03.31

プライバシーに関する契約についての考察(問答編) by 板倉陽一郎先生

こんにちは、丸山満彦です。

「学術雑誌『情報通信政策研究』第3巻第2号」に板倉陽一郎先生の論文「プライバシーに関する契約についての考察(問答編)」が掲載されています。興味深いです。。。



 総務省 - 情報通信政策研究所

・2020.03.30 情報通信政策研究 - 第3巻第2号

・[PDF] プライバシーに関する契約についての考察(問答編) 著者:板倉 陽一郎(ひかり総合法律事務所パートナー弁護士)

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2.「プライバシーに関する契約についての考察」の基本的な枠組み
...インターネット上に数多ある、プライバシーポリシーや利用規約に着目すると、①プライバシーポリシーにおいて個人情報の保護に関する法律...における法定公表事項等が記載され、②更にこれが発展してプライバシーポリシーに第三者提供等に関する同意が記載され、③同意を円滑に取得するために、利用規約によりプライバシーポリシーにおける同意を取得しようとする、という流れが確認できる。そして、利用規約による第三者提供等に関する同意の取得は公法上の契約である(個人情報保護委員会がいうところの「承諾」に限らない)といえる。一方、公法上の契約を発生させようとした条項について私法上の解釈が問題となるところ、(個人データの)第三者提供等に関する同意は、私法的には、当該個人情報の取扱いの範囲においてはプライバシーに関する請求権(人格権に基づく差止請求権及び不法行為に基づく損害賠償請求権)を行使しないという意思表示を含むと考えられ、これを、連載では「プライバシーに関する契約」と称している4。そして、公法上の契約及び個人情報保護法上は有効であることを前提とし、それでもプライバシーに関する契約について何らかの問題が生じるか、というのが基本的な問題設定である5。そして、プライバシーに関する契約について第一類型(個人情報保護法上の同意に関する契約)、第二類型(個人情報保護法上の法定公表事項に関する契約)、第三類型(個人情報保護法上の請求権の制限に関する契約)に分類した上で、契約締結の場面における限界(有効な被害者の同意がない、人格権の放棄、消費者契約法 10 条違反)、利用規約変更の場面における限界(定型約款条項違反)を論じ、その効果を分析した6。さらに、訴訟法上の問題について、民事訴訟、行政訴訟の場面をそれぞれ考察してきた7。

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問題提起だけ整理してまとめておきますね。。。

3.1.一切の安全管理措置を講じないことを内容とする人格権の不行使特約の有効性の問題提起

個人情報保護法の 2020 年改正では漏えい事案についての(法的)報告義務を課す予定があり、本人が漏洩について知り得る機会が増加する8。現行の努力義務のもとで漏えいの事実を通知・公表していない事業者は少なからず存在するが、法的義務の下では許されない。これに対応するための、一切の安全管理措置を講じないことを内容とする人格権の不行使特約の有効性をどう考えるか。すなわち、不正アクセスについて一切措置を講じていない結果、情報は不正アクセスなどによって漏えいする可能性があることをあらかじめ伝え、重過失を認めた上で契約を結ぶ点(いわゆるノーガード戦法)をどう考えるか。

3.2.プライバシーポリシー等の設定についての対応モデルについての問題提起

報告者の問題意識との関係で、OECD では、一般の人にも理解できるようなシンプルにしていこうという議論があり、2006 年に、”Making Privacy Notices Simple”という報告書が出ている9。比較法的にも議論があるところだ。他方、実務家として、依頼者から(プライバシーポリシー等に関する)相談があった場合、対応するときのモデルは存在するか。

3.3.立法上の議論の具体的内容の問題提起

個人情報保護法上、顕在化している問題については、事前の包括同意の限界や、同意内容の変更が包括的に許されるのかという点が規定されていないという設計上の甘さにも求められると思われるが、筆者が立法上の議論といった場合に、同意の可否を想定しているのか、それとも別の議論を想定しているのか。

3.4.開示等の請求等は私法上の請求権に純化したといって良いかの問題提起

筆者は個人情報保護法の開示等の請求等について、私法上の請求権であり、私法上の規律が及ぶ、と説明するが、2015 年改正以前は文言上、まさに公法上の規律のような書きぶりであり、そもそも個人の側が個人情報取扱事業者における個人情報の取り扱いをチェックできる唯一の手段であるということからすると、2015 年改正以降は私法上の請求権に順化したという理解で本当に良いのか。開示等の請求について、契約で、不行使特約というかはさておき、制限ができるという取り扱いで良いのかは疑問であったが、不行使特約という枠組みで、少なくとも放棄はできないという規律になるのか。(公法上の規律としての性質を加味して)強行法規に近く放棄できないという扱いも考えられるのではないか。

3.5.定型約款との関係、公法私法の分類の建前の問題提起

1点目だが、利用規約やプライバシーポリシーは、定型約款に含めることができるのか。特に組み入れ要件の充足性について。プライバシーポリシーのようなものも定型約款に含めて考えるケースが多いが、その場合、定型約款にプライバシーポリシーのようなものを含めるための組み入れ要件というのは、実務的に特別な取り扱いというか、配慮した事項があるのか。
もう1点、公法・私法という観点につき、開示請求権が個人情報保護法に入っているように、個人情報ないしはプライバシーに係る契約について、公法と私法に分けるという議論、建前を今後も貫けるのか、貫く必要があるのか。


3.6.公法上の規律と私法上の契約の役割分担の問題提起

公法上の規律と私法上の契約の関係について、個人情報保護法に関して、公法上の規律の役割と、私法上の契約の役割分担をどう考えるか。


3.7.不行使特約と被害者の承諾の法理の区分の必然性の問題提起

不行使特約の点、損害賠償請求権については被害者の承諾の法理を適用して処理するという説明だが、特許法上の通常実施権のように差止請求権と損害賠償請求権、どちらも不行使特約の効力の範囲の問題として取り扱う場合もある。また、被害者の承諾の場合で問題となってきたのは、基本的に身体傷害の事例であって、プライバシー侵害とは想定されている事例が異なるとも考えられる。それでも損害賠償請求権に関しては、不行使特約があったと言える場合であっても、被害者承諾の法理の枠組みの中で考慮しなければならないという考えか。

3.8.いわゆるリクナビ事件の位置付けの問題提起

いわゆるリクナビ事件は、個人情報保護法上の問題が指摘されて勧告・指導に至っているが、公法上の同意としては問題があるという整理でよいか。

 

 

 

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