排出量市場はうまくいくか
こんにちは,丸山満彦です。東京証券取引所と東京工業品取引所が、温室効果ガスの排出量取引を行う取引所の開設にむけて2009年度中に共同出資して新会社を設立する方針を固めたというニュースがありますが,この排出権取引というのがうまくいくのか?というのが気になる点です。
わりきりの問題でしょうが,制度設計が難しいような気がするんですよね。。。(合理的な範囲での)正確な排出量の算定と,それに対する合理的または限定的な保証が必要となってくるのだろうと思うのですが,そのいずれもすぐには制度の安定性を確保するのが難しいように思います。
ただ,やらなければ前にはすすまないので,そろそろとやりだすのでしょうね。。。
【ニュース】
■朝日新聞
・2009.10.21 排出量市場創設へ準備会社 東証・東工取が方針
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東京証券取引所と東京工業品取引所は、温室効果ガスの削減に向けた排出量取引市場を創設するため、準備会社を合弁で設立する方針を固めた。国内の排出量取引制度は、鳩山政権が11年度からの導入を目指している。合弁会社の設立によって、制度の受け皿として名乗りを上げ、来年にも市場を設ける考えだ。
(略)
排出量取引を仲介する市場参加者の役割は、主に大手商社が担うと見込んでいる。温室効果ガスの排出量取引は、欧州で活発化しており、取引単位などの条件を欧州に近づけて流通量の確保を目指す。
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■毎日新聞
・2009.10.20 温室ガス:排出量取引へ新会社…東証など、09年度中にも
【関連】
■気候変動対策認証センター
■公認会計士協会
・2009.08.25 監査・保証実務委員会研究報告第21号「二酸化炭素排出量の検証業務に関する論点の整理」の公表について
・・前書文
・・本文
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論 点
【論点1】想定利用者と利用目的
検討事項
34. 二酸化炭素排出量の検証業務の目的は、企業等が報告する実際排出量に係る情報についての想定利用者の信頼の程度を高めることである。したがって、当該排出量情報の想定利用者と利用目的は、二酸化炭素排出量の検証業務における重要性の考え方や検証報告書などの論点にも影響するため、あらかじめ整理しておく必要があると考えられる。
現在行われている排出量取引実務等が想定する排出量情報の利用者と利用目的
(EU排出量取引制度)
(環境省事業)
(国際規格ISO14064-3)
排出量情報の想定利用者と利用目的
その他の諸概念の検討の必要性
(想定利用者の範囲)
(保証対象の性格の相違)
【論点2】判断規準(排出量算定・報告基準)の適切性
検討事項
46. 二酸化炭素排出量の検証業務を実施するに当たっては、検証業務の主題である二酸化炭素の実際排出量を算定し、報告するための規準が必要となる。ここでいう規準は、検証業務を実施する側から見れば判断規準であるが、これと同時に、排出量を算定し排出量情報を開示する側から見れば、排出量情報の作成規準となる。したがって、二酸化炭素排出量の検証業務を実施する上で、この規準がどのようなものであるべきかについて明確にする必要があると考えられる。
公認会計士等が行う保証業務の信頼性を確保するための規準の考え方
環境省事業と規準の適切性
考察
50. 前項で述べたように、排出量に関する算定・報告基準の適切性については、想定利用者とその利用目的により、規準の適切性のそれぞれの要件の相対的重要度は異なると考えられる。しかしながら、排出量取引が今後広く市場において一般に行われるであろうことを考慮すると、排出量に関する算定・報告の判断規準に関しては、規準の適切性の要件を満たしておくことが必要となろう。そうすることで排出量取引の信頼性がいち早く確保できるとともに、排出量取引が制度として健全に発展していくことになると思われる。
【論点3】二酸化炭素排出量の検証業務における保証水準
検討事項
51. 一般的な保証業務においては、保証業務リスクの程度により、合理的保証業務と限定的保証業務に分類される。ここで、二酸化炭素排出量の検証業務においても、これらいずれの業務もなし得るのか、あるいは、合理的保証業務としてしか認めるべきではないかどうかが問題となる。
環境省事業及びEU排出量取引制度における取扱い
考察
55. 排出枠が一般的には貨幣価値を有するものである以上、排出量情報の検証における保証水準は、合理的保証業務による合理的な水準が望ましいであろう。
56. また、排出量取引制度において求められる検証業務の結論の保証水準は、事業者の不正誘発要因(不正による利益享受動機、不正実行可能な状況、不正実施の正当化など)を考慮して決定する必要もあると思われる。排出枠の価格が高い場合や、限定的保証業務による検証手続のように簡易な手続の場合には、いずれも事業者が不正を働く可能性が高くなるため、この可能性をどの程度低くする必要があるかも考慮しなければならない。
さらに、保証業務の分類を検討するに当たっては、検証機関の責任との関係も考慮すべきである。すなわち、検証機関に対して厳しい責任を課すことになれば、検証機関はそれに応じた検証手続を実施することとなり、その結果、より高い水準(合理的保証)の結論が求められるであろう。しかし、合理的保証業務の場合は、通常、限定的保証業務より検証業務のコストが高くなる。上場企業を対象とした財務諸表監査に比べて、より広範囲な事業者を対象と想定した二酸化炭素排出量の検証業務にあっては、資力の小さな事業者主体に対する検証業務のコストを社会的にどのように負担するかの議論が重要であり、これらをどこでバランスを取るか、制度管理者の総合的判断が問われることにもなろう。
【論点4】二酸化炭素排出量の検証業務における重要性
【論点4-1】重要性概念の適用可否
検討事項
57. 財務情報等に係る保証業務を行うに当たっては、一般に、重要性が考慮される。しかしながら、実際排出量の算定結果はそのまま排出枠の算定につながり、ひいてはそれ自体が貨幣価値を有して市場で取引されることになるため、重要な算定結果の誤りだけにとどまらず、いかなる算定結果の誤りも容認できないのではないかとする見方もある。この考え方に基づけば、二酸化炭素排出量の検証業務に当たり、重要性概念を適用することの適否が問題となる。
環境省事業
EU排出量取引制度
方向性
61. 前項のとおり、重要性概念を適用せずに実際排出量の検証業務を行う場合には精査を前提とした手続が必要になるが、これによれば、多大な検証手続、ひいては検証のためのコストが膨大となることが想定される。これは、排出量取引市場の運用を考えた場合、市場にとっての検証コストが過大となることにもつながり、排出量取引市場の効率的な運用及び発展を著しく阻害する要因となり、現実的でないと考えられる。
62. また、第6項に記載のとおり、本論点整理では、二酸化炭素排出量の検証業務も財務情報等に係る保証業務に該当するものと考えているが、この保証業務では、業務実施者が証拠を収集する手続の種類や範囲等を決定するときと主題情報に虚偽の表示があるかどうかの判断をするときに重要性を考慮するものとされている。したがって、二酸化炭素排出量の検証業務に当たっても、他の保証業務と同様に、重要性の概念を適用することになると考えられる。
63. ただし、実際排出量の算定結果に誤りが発見されたにも関わらず、重要性がないからと言って修正されない場合には、その誤りに対応する分まで金銭的価値を有して取引されることになってしまい、排出量取引制度の理念に反するといった考え方もあろう。また、このような考え方に則して、発見された誤りはすべて修正しなければならないといった制度設計もあり得るが、このような制度における取扱いは、財務諸表等に係る保証業務の枠組みとは別のものとして位置付けられると思われる。
【論点4-2】重要性の規定要因
検討事項
64. 情報の想定利用者を制度管理者とする排出量情報の検証業務において、重要性の規定要因はどのようなものか。
直接の情報利用者としての制度管理者
制度参加者への影響
方向性
67. 排出量取引市場においては、制度参加者は、個別組織の排出量を取引したり、あるいは個別企業の排出量情報を参照して取引の意思決定を行うのではなく、自社の余剰割当量の状況と全体の需給バランスとを勘案しながら、排出枠をあたかも「商品」のように取引する。すなわち、キャップ・アンド・トレード型排出量取引制度においては制度管理者が排出量情報を含む算定報告書を利用するものとされている。したがって、当該制度においては、排出量情報の直接の利用者である制度管理者が、制度全体として予定する排出削減を達成し、また、市場の健全な運用を確保するために必要な保証レベル・コストを勘案しながら、排出量情報の重要性(許容可能な排出量差異)を設定していくものと考えられる。
【論点4-3】量的重要性と質的重要性
検討事項
68. 重要性概念として、財務諸表監査において量的重要性のみでなく質的重要性も考慮されるが、排出量情報の検証業務においても、質的重要性を考慮すべきかどうかが問題となる。
質的重要性の高い情報
69. 現在行われている環境省事業においては、重要性概念として質的重要性と量的重要性の両方が考慮されている。環境省事業の「排出量検証のためのガイドライン」では、量的重要性については量的基準を設けており、また、質的重要性については排出量算定に影響を及ぼす可能性も十分に検討しながら検証人が個々に判断することとされている。さらに、重要な情報の表示が「実施ルール」及び「モニタリング・報告ガイドライン」に準拠していない場合には限定付適正意見を表明するものとしているとともに、この重要な情報について例示列挙しており、これは「質的重要性の高い情報」について一定の言及をしているものと理解できる。もっとも、これは、環境省事業における検証業務の対象が、「算定報告書」の検証であり、この「算定報告書」中での記載情報について質的重要性を規定しているもので、最終的な単一の合計値としての排出量情報の中での質的重要性を定めるものではない。
方向性
70. 単一の排出量情報のみを検証の対象とするのであれば、質的重要性の考え方は適用され得ないと考えられる。ただし、環境省事業のように算定報告書として制度管理者に詳細な内訳情報や前提情報が提供され、制度管理者がこれを確認するような制度設計がされる場合には、制度管理者の確認・判断にとって質的に重要な情報が導かれるものと考えられる。
【論点4-4】重要性の基準値
検討事項
71. 量的重要性について、どの程度の差異まで許容できるものとするかといった重要性の基準値を定める必要があるか、また、定める必要がある場合にはどの程度の水準に設定すべきかが問題となる。
環境省事業
EU排出量取引制度
重要性の基準値として設定する値
【論点5】保証業務リスクと保証業務手続
【論点5-1】二酸化炭素排出量の検証業務におけるリスク・アプローチの適用方法
検討事項
77. 二酸化炭素排出量の検証業務についても、他の保証業務と同じくリスク・アプローチによって計画立案・実施することになると考えられる。しかし、検証リスクの内容についての共通認識が確立していない部分もあり、二酸化炭素排出量の検証業務特有のリスク・アプローチの適用方法の標準化、特に、排出源の種類ごとの考え方の標準化をどの程度まで詳細に行う必要があるか、またどのような形で行うことができるかが問題となる。
二酸化炭素排出量の検証業務の基準における記載
二酸化炭素排出量の検証業務の実務慣行におけるリスク・アプローチの適用方法
考察
82. 二酸化炭素排出量の検証業務については、社会的には、いまだその意義や価値が理解されていない場合も多く、検証業務にかける費用はなるべく抑えるべきとする傾向があり、限られた資源で一定の心証を得る必要性が高い。また、今後取引量やその経済価値が増えれば、ますますリスクは増し、効率的、効果的な検証が求められるようになると予想される。そのため、リスク・アプローチに基づく検証業務の仕組みを明確にし、さらには、具体的な事例を検討した結果から、ある程度の目安となるよう、より詳細なリスク・アプローチの適用方法についての検討が求められる。
【論点5-2】二酸化炭素排出量に関する情報を作成するための要点の明確化
検討事項
83. 保証業務の1つである財務諸表監査では、監査人は財務諸表全体としての適正性を直接的に立証することは困難であるため、財務諸表の基礎となる取引、勘定残高、開示等について立証すべき目標である監査要点として経営者の主張(アサーション assertion)を利用する。
現行の排出量取引制度におけるアサーションの取扱い
(EU排出量取引制度)
(環境省事業)
(国際規格ISO14064-3)
92. ISO14064-3 では、「4.8 温室効果ガスのアサーションの評価」の項があるものの、アサーションとしてどのようなものがあるのかについては明確に整理されていない。
93. ISO14064-3 は、温室効果ガスのアサーションを責任当事者によってなされた報告(declaration)あるいは事実に基づく客観的な報告(statement)と定義し、温室効果ガス報告書等の形で提供されることもある、としている
実際排出量を検証対象とする場合
実際排出量以外の情報も検証対象とする場合
考察
96. このように二酸化炭素排出量の実際排出量は一定の算定式によって算定されるものであるため、実際排出量の適正性に関するアサーションは財務諸表の適正性に関するアサーションとは別の分類や内容になることが考えられる。したがって、今後、二酸化炭素排出量の算定に関わるリスクについて整理し、そのリスクに適切に対応するアサーションの分類や内容を明らかにしていく必要があろう。
【論点5-3】二酸化炭素排出量の検証業務における内部統制の評価アプローチ
検討事項
97. 財務諸表監査では内部統制の評価が重視されてきているが、二酸化炭素排出量の検証業務を実施する際の内部統制の評価はこれとどのように異なり、どのように考えるべきかが問題となる。
現行の排出量取引制度における内部統制の評価の考え方
(国際規格ISO14064-3)
(EU排出量取引制度)
(環境省事業)
(環境省事業における内部統制の評価実務)
(実務から考え得る内部統制の分類)
検証リスクとの関係でみた内部統制の評価手続
考察
106.今後、実際に排出量取引が大規模にかつ大きな市場で行われ、様々な投資家が参加してくる場合、検証リスクは大きくなり、かつ検証結果が投資家の意思決定に重要な影響をもたらすことになると考えられる。また、検証対象の規模が大きくなった場合も、内部統制に依拠しなければ検証を行うことが出来ない場合も増加してくると考えられる。従って、検証リスクを一定以下にしながら、効率よく検証を行うために、統制リスクを含め、リスク・アプローチ全体の理論構成は、排出量の検証業務に即したものがより求められるようになると考えられる。当協会でも、今後益々監査で得られている知識やスキル等を活かして、排出量の検証に関する効率的な手続やリスク管理の手法を検討していくことが求められる。
【論点6】検証報告書における意見の種類
検討事項
107.財務諸表監査における結論には、無限定適正意見、限定付適正意見、意見不表明、不適正意見がある。二酸化炭素排出量の検証業務においても同様の意見の表明を認めてよいかが問題となる。
限定付適正意見は認めるべきでないという考え
想定利用者への適切な情報開示のため限定付適正意見を付すという考え方
考察
111.検証報告書上の意見表明としては、限定付適正意見は想定すべきではないのではないかと考えられる。なぜならば、第108 項及び第109 項で述べられた理由に加え、検証報告書の利用者である制度設計者は、もっぱら実際排出総量を取り扱うこととなるため、全体として適正か不適正かのみに関心があると考えられるためである。
確かに、排出量取引市場の制度設計者が、重要性のない未修正の既知の誤りや検証範囲の限定があった場合、その事実について検証報告書上に記載を求めることは想定される。しかし、これらの記載は、あくまでも検証報告書上に追記された情報と位置付ければよいであろう。
なお、検証の対象が排出量のみでなく、その算定報告書等、算定までに至る情報等も検証対象に含まれる場合には、これらの情報等について一律に無限定適正意見を述べるのではなく、限定付適正意見も前提とする必要が生じてくるものと考えられる。環境省事業においても、検証意見の種類の1つとして限定付適正意見報告書を想定している。
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