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2008.08.10

これぞ発見的統制 (不正に学ぶ)

 こんにちは、丸山満彦です。高砂熱学工業株式会社が2008.08.08に横領があったことを公表しております。こういう事例から内部統制の整備のポイントを学ぶのもよいかもしれませんね。。。

 
■報道
●毎日新聞
・2008.08.08 着服:高砂熱学工業社員が3億超

=====
・・・
 99年10月から08年7月にかけ、工事に必要な経費をコンピューター上で水増ししたうえで、水増し分の現金を自ら管理していた金庫から引き出す手口を繰り返していたという。
 7月末に08年4~6月期決算をまとめる過程で工事経費の増減に不自然な点が見つかり、社内調査で発覚した。
 この支店では経理を同社員1人で担当していた。・・・
=====

 まず、経理と入出金を一人で担当していたんでしょうね。。。職務分掌<=予防的統制が不十分であったということですね。。。

 で、ポイント、結局これで発見されたわけですから、意図して内部統制として整備していればキーコントロールにもなりえるということです(まぁ、見逃していた期間もありますが・・・)。

「08年4~6月期決算をまとめる過程で工事経費の増減に不自然な点が見つかり」は発見的統制となるわけです。こういう分析は監査でも重要視されていますよね。。。
 
でも、こういう統制って、業務フローを蟻の目のように追っていても識別されないことがあるので注意してください。。。


【参考】高砂熱学工業
・2008.08.08 当社従業員による不正行為について

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Comments

この問題のポイントは、「支店の従業員」と言う処にある様に思います。
支店で、経理と入出金を一人で担当していたと言うのは、一見理解できますが、支店にそこまでの権限と機能を持たせること自体にも問題があるのでは無いでしょうか?
職務分掌<=予防的統制が不十分と言うのもありますが、予防的統制が効くような組織体制を取っていなかったと言う全社的な統制の問題点もあると考えます。
個人や業務に帰結するのは簡単ですが、再発防止にはいま少し大きい観点も必要かと思います。

Posted by: 本音 | 2008.08.11 18:36

支店とだけしか開示されていないようなので、どの程度の規模か判りませんが、一般的には大規模なブランチでしょう。一部上場企業なら、大阪支店はありえても、松戸支店はないでしょうから。松戸出張所でしょうね。(松戸の人、ごめんね)
それは10年ほどで3億6千万を横領できたことからも判ります。年に3千6百万ですからね。この二桁上、三桁上の取り扱いがないと、横領しづらいでしょう。
やはり、これだけの金額の経理と入出金を一人に任せていたことが問題だと思います。

Posted by: nmaeda | 2008.08.11 23:36

>でも、こういう統制って、業務フローを蟻の目のように追っていても識別されないことがあるので注意してください

業務プロセスの文書化から始めると、まず普通は気付かないと思います。業務プロセスの理解は必要でも、統制を探すのは、単に業務プロセスをフローチャートにおこすのとはちょっと次元が違うという良い例です。

でも、こういう発見的統制って、同じ分析やっていても気付く人と気付かない人というのが結構出てくるのではないでしょうか?

Posted by: FN | 2008.08.12 00:54

現金はこわいですね。

また、職務分掌という予防統制が十分ではなかった場合の発見的統制が機能した(いままではしていなかった)ケースですが、四半期決算の導入で発見されたのでしょうか。
管理会計によるモニタリングがいかに大切かわかりますね。

Posted by: 閑人 | 2008.08.12 01:31

本音さん、nmaedaさん、FNさん、閑人さん、コメントありがとうございます。
 忙しくてコメントへの返信ができずにすみません。現在、電車で移動中ですので、その隙に。。。

 職務分掌は予防的コントロールとして重要です。それがリソースの関係からできないのであれば、より強力な発見的コントロールにより補完するか、そこで扱う金額を下げるか(影響額を下げること)の方法が考えられますね。。。

 発見的コントロールは属人的な部分もありますので、注意が必要です。つまり、力量があるかですよね。これって、統制環境に関係するところですね。それも含めて発見的コントロールの有効性は評価されるべきでしょうね。。。
 もちろん、多くの会社で統制環境などの全社統制は、簡単なチェックリストにより終わらせることが多いのは承知しておりますが・・・

 おっと降りる駅が近づいてきました。。。ではでは。。。

Posted by: 丸山満彦 | 2008.08.13 15:30

「支店」、あるいは「金額の経理と入出金を一人に任せていたことが問題」と言うのは、内部統制の評価では、あくまでも業務処理統制の領域であるのは小生も十分理解しています。
しかし、内部統制の評価を行ううえで、見過されがちなのが、丸山先生ご指摘の全社統制(統制環境)の点です。
T社の件も組織・牽制機能あるいは人員配置に問題があったと強く想像します。
多くの問題は「人」に係る事であり、「機能」を分散すれば解決・防止出来るのですが、「企業の効率性」の名の下に、そう言った改善策が取られないのは一般的なことだと思います。
今の時代、経営者に対して内部統制の名の下に「人を増やしなさい」「でないと、まともな統制環境は維持できませんよ?」と言えるのは、公認会計士しか居ないと言っても、過言では無いと思います。
それほど各業種・各企業の人員(とくに内部統制に係る部門で)は、減少の一途を辿っています。

Posted by: 本音 | 2008.08.16 23:02

本音さん

>今の時代、経営者に対して内部統制の名の下に「人を増やしなさい」「でないと、まともな統制環境は維持できませんよ?」と言えるのは、公認会計士しか居ないと言っても、過言では無いと思います。

むしろそれを言うのは監査役ないしは内部監査部門のお仕事ですね。
会社側が会計士に言わせたい気持ちはわからなくもないですが、会計士が統制の有効性に対する意見以上に踏み込んだことは言えないでしょう。
そういう会社はむしろ自己評価機能とか自律機能が劣化していると考えられるので、人の数だけでなくもっと深いところに問題があるかもしれませんね。

Posted by: 閑人 | 2008.08.17 14:43

本音さん、閑人さん、コメントありがとうございます。

会社の利益につながる内部統制(例えば、統制コストよりも不正により失う損害が少ないような)は、まだ経営者も導入をしやすいのですが、投資家保護のための内部統制って、どの程度すればよいのかについての経営判断が難しいですよね。法令順守なども・・・

監査役もどのように指摘するのだろうか。。。

Posted by: 丸山満彦 | 2008.08.17 18:07

>むしろそれを言うのは監査役ないしは内部監査部門のお仕事ですね

分かってはいるのですけれど、内部監査部門としては言いづらいことではあります。特に、下っ端の身分としては。

結局、内部監査は自己監査ですので、経営層に聞く耳があるか否かですべて決まってしまいます。人間、誰しもいやなことは言われたくないですからね。

>投資家保護のための内部統制って、どの程度すればよいのかについての経営判断が難しいですよね

こういう話は、つまるところコストのかかる話でしかないので、経営判断とかコスト意識を持ち出すと難しいものはあります。警察は必要だけれども、どこまでコストをかけるべきか、という話と相通じるものがありそうです。社会的に見れば、警察が暇であるのは良いことですが、維持するのも一定のコストはかかってしまうわけで、維持コストがかかるのは必要悪ということです。投資家保護と警察の維持コストを同列に扱うな、という声が聞こえてきそうではありますが。

少なくとも、投資家保護のためにある程度のコストをかけるのはしょうがないことで、それが出来ない会社であれば、上場する資格なしということで資本市場から退場して頂くほかはないのでしょう。

とは言うものの、過剰な内部統制対応を求めるわけではないのですが、もうちょっと財務報告に意識を向けても良いだろうなという企業も数多くあるのではないか、という気はします。自信をもって、「ウチの財務報告は大丈夫です」と言い切れる経営者の方は、どれ位いるものなのでしょうか?この辺は監査法人の方であれば多くの企業をご覧になっているので、一つの企業にしか在籍したことのない私のような人間より、バランスの取れた意見をお持ちのことと思います。

Posted by: FN | 2008.08.19 01:02

FNさん、コメントありがとうございます。

米国企業の方と話をしていると、日本には「CFOがいない」という話がでますよね。。。
 経理部長の上が管理部門担当の取締役で、必ずしも会計や財務の知識があるわけではなく、企業全体の財務や会計を仕切れているわけではない。。。

 こういうのは、全社統制の問題のひとつと考えられますよね。。。

Posted by: 丸山満彦 | 2008.08.19 11:58

>どの程度すればよいのかについての経営判断が難しいですよね。

そうですね。
だから経営判断なんです・・・といって監査人は煙にまいてしまうのですが、判断はその立場での責任における決め事なので第三者が「これが正しいです」とは言えないわけですよね。
しかも、あえて言えば「そうは言っても、経営者の立場からすれば・・・」という答えが返ってくることが分かっていますからね。

どこかの経済団体の主催で、規制当局、経営者、学者、会計士が集まってパネルディスカションをすれば面白いかもしれませんね。永遠に終わらないかもしれませんが・・・・夏休みは今日でおわってしまいました。

Posted by: 閑人 | 2008.08.19 16:23

閑人さん、コメントありがとうございます。

> 経済団体の主催で、規制当局、経営者、学者、会計士が集まってパネルディスカションをすれば面白いかもしれませんね。

米国ではラウンドテーブルを開催しましたよね。。。日本でも当然するべきだと思いますけどね。。。投資家も忘れずに。。。

Posted by: 丸山満彦 | 2008.08.19 18:30

>米国企業の方と話をしていると、日本には「CFOがいない」という話がでますよね。。。

CFOなどアルファベットの肩書きに抵抗感を持つ企業(経営者)は少なくありません。
海外での取引や事業が活発な上場企業ですら、例外ではありません。
先ずは最高財務責任者と言う日本語の肩書きを広く普及させるような考え方が、望ましいのでは?

>経理部長の上が管理部門担当の取締役で、必ずしも会計や財務の知識があるわけではなく、企業全体の財務や会計を仕切れているわけではない。

前述のとおり、先進諸外国に比べ、日本では内部統制に直接係る部門(≒管理・間接部門)の規模が小さい事も、CFO最高財務責任者の不在や会計財務の知識の乏しい経理担当役員の存在に繋がっているのだと思います。
会計・財務以外にも、法務や情報・情報セキュリティなど、最高○○責任者を必要としている分野は多々有ります。
しかし日本企業で、最高○○責任者と言った役職に充足できる組織の数・規模あるいは幹部の人材を揃えている上場企業は如何ほどあるでしょうか?(各業界の上位企業でも、欧米企業と比べればお寒い限りです)

大半の日本企業は、“軽装備”を武器の一つとして、高度成長期の波に乗り、その後の幾つかの危機を乗り越えて来ましたが、その企業に対して“重装備”を施すのですから、チョッとやソッとの「制度」だけではなかなか難しいと思います。
それだけに企業の外からの“外圧”が重要だと思います。勿論、外は公認会計士に限らないと思いますが、「外」の方は、企業の根底に有るものも含め、変えなければならないと言う意識が必要だと思います。
その対象は、「統制環境」と言う単語に置き換わっているのだと、小生は解釈しています。

Posted by: 本音 | 2008.08.19 22:18

>“外圧”が重要だと思います

本音様の仰る通りで、現実は「外圧」があると、ある意味、大変助かります。明治維新も経験しているわけですから、日本人は外部環境の変化に必ずしも弱いわけではないと思うのですが、どうもこの内部統制に関連する分野では、環境の変化についていけてないような気がします。

>軽装備”を武器の一つとして、高度成長期の波に乗り、その後の幾つかの危機を乗り越えて来ました

という、成功体験が足かせになっているのかもしれません。

Posted by: FN | 2008.08.20 01:20

本音さん、FNさん、コメントありがとうございます。

> 最高財務責任者
英語よりも日本語のほうがよいですね。日本語にするともとのニュアンスが伝わらない場合もあるので難しいこともありますね。後は、慣れですね。。。
Informationを情報という新しい言葉で訳したのは森鴎外という話ですが、新しい言葉を作っても良いかもしれませんね。。。

さて、それはともかく、国家存亡の危機にならないと日本は本気にならないのですかね。。。

明治維新のような劇的なインパクトがないと核心は難しいのかなぁと思ったりもします。

少しずつの変化の場合は、ユデカエルのような感じで気付いたらおそかったということになるのかもしれません。

親分子分の関係を断ち切るなにかがないとですよね。。。

日本の最高○○責任者というのは、基本的にはその機能を担うだけの知識とリーダーシップがあるかということよりも、親分だからという感じですからね。。。

Posted by: 丸山満彦 | 2008.08.20 13:03

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