人間はめったにおこらないことの確率を正確に見積もれないらしい。。。
こんにちは、丸山満彦です。ニュートンという科学雑誌があります。
●http://www.newtonpress.co.jp/science/newton/
環境問題から宇宙の問題(たとえば、ブラックホール)や量子力学の話やいろいろと面白い記事があります。先月発売の4月号に
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人はなぜ確率に弱いのか?
直感と計算の「ズレ」にせまる
協力 今野紀雄/友野典男
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という記事がありましたので紹介します。こ記事では、確率に対して人の直感というのはかなりいい加減であるということが書かれています。特にめったに起こらないことについて、人間の脳は正確に見積もれないのかもしれないそうです。
内部統制のミス、それによって引き起こされる財務諸表の重要な虚偽記載というのも、確率的にいえばめったに起こらないことですよね。。。そもそも運用テストのサンプルを25件にするのも、ミスはめったに起こらないという前提の上に成り立っていますし。。。
であれば、内部統制報告制度って、生理学的に成り立たない制度なんじゃないかと思いませんか(笑)。
たとえば、こんな問題が紹介されています。
ジャンボ宝くじの1等が当たる確率と、1年間で交通事故死する確率はどちらが高いだろうか?
みなさんも人間の脳が正確に見積もれないことを実感し、制度の矛盾も実感してみてください(笑)。
■あなたの直感は正しいか?
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問題1.誕生日の一致
生徒50人のクラスがある。その中に、同じ誕生日の人が一組でもいる確率はどれくらいだろうか?
50%より大きいだろうか、それとも50%より小さいだろうか?
問題2.日本シリーズ
ある野球解説者が、開戦前に次のように解説した。
「今年の日本シリーズは大接戦です。両チームの実力はまったく互角ですから、最終戦の第7戦までもつれこむ可能性がもっとも高いでしょう。」
この解説は、果たして正しいだろうか?
問題3.「モンティ・ホール問題」
挑戦者の前には3枚のドアA、B、Cがある。どれか一つのドアの後ろには、豪華な商品がかくされているが、残りの二つのドアはハズレである。司会者は当たりのドアを知っているが、当然、挑戦者は知らない。
挑戦者は、ドアAを選んだ。すると、司会者は、残された2枚のうちドアBを開け、それがハズレであることを挑戦者に見せた。ここで司会者は、挑戦者にこう持ちかけた。
「はじめに選択したドアAのままでも結構。ですが、ここでドアCに変更してもかまいませんよ。」
さて挑戦者は、変更すべきか否か?
問題4.ウイルス感染検査
いま、1万人に1人の割合で感染しているウイルスがあるとする。あなたがこのウイルスの感染検査を受けたところ、「陽性(感染している)」と判定された。
この検査の精度は99%であり、誤った判定をくだす可能性はわずか1%しかないという。このとき、あなたが感染している確率は何%だろうか?
50%より大きいだろうか、それとも50%より小さいだろうか?
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確かに直感で回答してから、後で計算しなおすと実感できます。。。。皆さんも考えてみてください。回答はいずれします。。。
この記事では、人間が確率に弱いのは「進化の後遺症」ではないかという仮説を紹介しています。著書「利己的な遺伝子」で有名なイギリスの生物学者リチャード・ドーキンスのようなことが紹介されています。
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非常にありえなさそうなことは、起こりえないこととして処理しても問題はない。私たちの精神的なブルカの窓(理解する範囲)が狭いのは、私たちの祖先が生き残るのを助ける上で、それを広げる必要がなかったからなのである。
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人間がありえそうにない出来事の確率を直感的に理解できないのは、そもそも進化の過程でそれを理解する必要がなかったので、獲得できていないということというわけである(真偽のほどはともかくとして)。。。このリチャード・ドーキンスの本は1991年に初版がでてからいまだによく売れているようです。私の本は1992年の第七版ですね。。。
この記事で登場する今野先生の説によれば、
●巨大な数を直感的にあつかうことに脳がなれていない
●少ないサンプル数で全体の傾向を推論してしまいがち(小数の法則:たとえば、ねばり強い東北出身の知人が2、3人いるだけで、「東北の人はねばり強いといってみたくなる」)
ということらしいです。
確かに、何万件の伝票のうちに潜む内部統制のミスというのが、財務報告の虚偽記載にどの程度の確率でつながるのか・・・というのも直感ではわかりにくいですね。。。
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ちなみに、ジャンボ宝くじで1等があたる確率は1000万分の1、日本人1人が1年間に交通事故で命を落とす確率は2万分の1だそうです。交通事故で死ぬ確率のほうが500倍高いらしいです。
もう少し身近な例にすると、生んだ子供が双子である確率は88分の1、三つ子である確率は4500分の1、四つ子である確率は37万分の1だそうです。ジャンボ宝くじで1等というのは、かなり当たりにくいもののようです。。。
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中西準子・産総研・化学物質リスク管理研究センター長の著書「環境リスク学―不安の海の羅針盤」
http://www.amazon.co.jp/%E7%92%B0%E5%A2%83%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E5%AD%A6%E2%80%95%E4%B8%8D%E5%AE%89%E3%81%AE%E6%B5%B7%E3%81%AE%E7%BE%85%E9%87%9D%E7%9B%A4-%E4%B8%AD%E8%A5%BF-%E6%BA%96%E5%AD%90/dp/4535584095
の中に、色々なリスクを比較するという話が出てきますが、世界的に見ても行政レベルでリスクを分析的に捉えるのはごく最近になってからで、リスクそのものつまりは確率で比較すること自体を学問的に作ってしまったのが中西先生なんですわ。
反論というか批判も多いのだけど、行政でも使えるような批判が出てこない(出せていない)ところが面白いです。
Posted by: 酔うぞ | 2008.03.31 09:23
酔うぞさん、コメントありがとうございます。
紹介の本はまだ読んでいないので、今度読んでみます。。。
Posted by: 丸山満彦 | 2008.04.01 02:26
>少ないサンプル数で全体の傾向を推論してしまいがち
この説が正しいのであれば、内部統制報告制度を導入したこと自体は自然なことであるともいえますね。上場企業の中で大規模な粉飾決算を行う企業はごく少数だと思いますが、いざそんな企業が出てくると、他にももっとあるのではないか、と考えてしまうわけですから。そのため、規制を強化しなければならないと思うのは、人間の本性にあっているとも考えられそうです。
Posted by: FN | 2008.04.01 12:58
常識が理解を妨げる確率の意義。
「たゐに」とは、四七字の仮名を繰り返さずに、全部使って作られた、「たゐ(田居)にい(出)で、な(菜)つ(摘)むわれ(我)をぞ、きみ(君)め(召)すと、あさ(求食)りお(追)ひゆ(行)く、やましろ(山城)の、うちゑ(打酔)へるこ(子)ら、も(藻)はほ(干)せよ、えふね(舟)か(繋)けぬ」という五七調の歌詞。(「大辞林」より)
ところで、仮名47字を47個の升目に書き込む場合、1から8までの番号が打ってある特定の升目に、仮名8字が書き込まれる組合せの数は、C(47,8)=314457495、即ち約3億です。
したがって、「たゐに」47字の中から無作為に取り出した8字が、偶然に「やまのうへおくら」となる確率は、約3億分の1になります。
では、「たゐに」47字を4段に書くと、万葉の歌人山上憶良の名を表す仮名8字「やまのうへオクラ」が、つぎのように特異な配置になるのは、偶然といえるでしょうか。
へ の や オ 5 3 1 6
ru う ま hi 口 4 2 口
ko ti si yu 口 口 口 口
ラ we ro ク 8 口 口 7
右上のように番号を打った升目に、偶然に8字「やまのうへオクラ」が左上のように並ぶ確率は、39!/47!=1/12678926198400、 即ち12兆分の1以下になります。
それゆえ、このようなことが起こるのは、偶然によるものではなく、歌の作者が苦心して、意図的にそうしていると考えざるを得ないはずですが、いかがでしょうか。
Posted by: MM3210 | 2010.11.14 13:49