質問 財務報告に係る統制環境だけを抜き出して評価できるか?
こんにちは、丸山満彦です。金融商品取引法対応では、内部統制の4つの目的のうち、財務報告の信頼性に関係する部分、つまり財務報告に係る内部統制を評価することになりますよね。。。そこで、
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内部統制を全部評価する必要はない、財務報告に係る内部統制だけを評価すればいいんだ。
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とよく言われます。そのとおりなのですが、例えば、
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成分偽装が行われていることを知っていながら、売上高が減るのでそれを是正しようとしなかった経営者がいる企業において、財務報告に係る内部統制は成分偽装とは関係ないので問題ない。統制環境は有効である。
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と評価できるのでしょうか?
もちろん、それ以外のいろいろな状況を総合的に判断することになるとは思いますが、成分偽装を行っているのを見逃すような経営者であれば、財務報告の粉飾についても同じように見逃すだろうという推定がまずは働くようにも思います。
経理部長や社長が行う決算説明の中で、重要な情報についての説明を受けていない(隠している)ということが想定されるのではないか・・・ということを考えますよね。
例えば、
・商品が一定の品質基準を満たしていないため、販売できない可能性が非常に高いという事実が分かったが減損しないとか、
・工場跡地から有害物質が発見されその除去に多額の費用がかかることがわかったが、その事実を開示しないとか、
もちろん、文書化3点セットをいくらつくってもなかなかこういうことは会計士自ら見つけることは難しいように思いますので、会社側から説明を受けないとわからないようにも思います。
全社的な統制ということで、統制環境は質問表により評価されることが多いように思いますが、
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成分偽装が行われていることを知っていながら、売上高が減るのでそれを是正しようとしなかった経営者がいる企業において、財務報告に係る内部統制は成分偽装とは関係ないので問題ない。統制環境は有効である。
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と評価できるのでしょうか?
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Comments
経営者が偽装の事実を掴んでいるのであれば、不備または重要な欠陥と判断すべきかと思います。
問題のある慣行を是正する仕組みがないということで、全社統制の評価項目でも×がつくはずです。
投資家が財務報告で期待しているのは、成分偽装が行われていない売上が開示されていることのはずですから、成分偽装を知りながら是正措置を取らないのは、一般投資家に虚偽の情報を与えていることになると思います。
Posted by: FN | 2008.03.28 16:48
FNさん、コメントありがとうございます。
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問題のある慣行を是正する仕組みがないということで、全社統制の評価項目でも×がつくはずです。
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財務報告に係る内部統制が不備ということになるという判断ですね。
まぁ、それが重要な欠陥に該当するかどうかは状況次第かもしれませんが、経営者が(消極的であれ)関与している不正がある場合は、重要な欠陥ということもありえるのでしょうかね。。。
Posted by: 丸山満彦 | 2008.03.28 18:55
>経営者が(消極的であれ)関与している不正がある場合は、重要な欠陥ということもありえるのでしょうかね
実施基準でも経営者の関与した不正がある場合は、重要な欠陥に該当しうるという記載があります。
そうはいっても、成分偽装というのは財務報告の不正に該当するのかという意見もあるのでしょうが、内部統制報告制度の趣旨を踏まえれば、投資家への与える影響を考えて不備または重要な欠陥になると思っています。
監査人の方が発見すれば、監査役へ通報すべき案件でもあるはずです。
会計士の方も私と同じようなことを考えるのかなと思うのですが、いかがでしょうか?
Posted by: FN | 2008.03.28 23:40
FNさん、コメントありがとうございます。
内部統制基準の監査の部分には確かに次のように書かれていますが、
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(6) 不正等の報告
監査人は、内部統制監査の実施において不正又は法令に違反する重大な事実を発見した場合には、経営者、取締役会及び監査役又は監査委員会に報告して適切な対応を求めるとともに、内部統制の有効性に及ぼす影響の程度について検討しなければならない。
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これは、不正等の重大な事実を発見したら監査役等に報告しなさい。ということと、場合によっては(財務報告に係る)内部統制の有効性にも影響するので検討しなさい。。。ということですね。。。
問題は、成分偽装が行われていることを知っていながら、売上高が減るのでそれを是正しようとしなかった経営者がいる場合、成分偽装をするくらいだから財務報告についても偽装(粉飾)するだろう・・・と思うということもありえるでしょうかね。。。
もし、成分偽装はしたけど財務報告については粉飾をしない倫理観を持っているということはどうやって証明できるかなぁ・・・ということですね。。。
「ほかでは不正はするけど、財務報告については絶対不正をするような倫理観ではないんです」って経営者が言った場合はどうなんですかね。。。信じますかね。。。
Posted by: 丸山満彦 | 2008.03.29 11:28
そういう会社はそもそも経営者評価の前提である経営者の誠実性が備わっていないことになるので、評価自体が成り立たないのではないでしょうか。
もちろん、監査人としても、意見不表明にならざるを得ないのでしょうね。
Posted by: 閑人 | 2008.03.29 14:27
>「ほかでは不正はするけど、財務報告については絶対不正をするような倫理観ではないんです」
倫理観の話になると証明は難しいですが、表面上、財務報告プロセスは適正という可能性はあるでしょうね。
例えば、成分偽装を隠している状態で商品Aの売上が100億あったとします。この売上がちゃんと100億として処理される社内体制であれば、表面上は適正な財務報告となります。
別の言い方をすると、インプットしたものは不適切なものだったが、インプット後の処理は適切だったということです。つまり、業務プロセスは有効であるという評価です。
業務プロセスが有効であっても、統制環境は有効とは限らないし、統制環境の有効性を業務プロセスが保証するわけではありません。
よって、財務報告では不正をしないという経営者の発言をある程度は認めたとしても、統制環境が有効ではないという結論になると思います。
でも今のお題は統制環境ですが、上記のような例を財務報告に係る内部統制全体に広げて考えると更に難問となりますね。全社統制の重要な欠陥が100%財務報告に係る内部統制の重要な欠陥になる、とされているわけではありませんから。
Posted by: FN | 2008.03.30 01:37
閑人さん、コメントありがとうございます。
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経営者評価の前提である経営者の誠実性が備わっていないことになるので、評価自体が成り立たないのではないでしょうか。
もちろん、監査人としても、意見不表明にならざるを得ないのでしょうね。
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過激な(笑)。
やはり、「成分偽装の黙認はするけど、財務報告の粉飾はしない」なんて都合のよい倫理観は認められないのでしょうかね。。。
FNさん、コメントありがとうございます。
内部統制の有効性は、COSOの場合だとそれぞれの構成要素に重要な欠陥があれば、内部統制は有効といえなくなりますよね。。。つまり、統制環境に重要な欠陥があれば、内部統制は有効ではないという結論になりますよね。。。
日本の場合は、基本的要素なんていい加減な言葉を使ってしまって論理的な破綻をきたしていますが、ITへの対応を除けば、COSOの構成要素と同じなので、やはり統制環境に重要な欠陥があれば、他の4つの基本的要素に不備がなかったとしてもやはり内部統制は有効ではないという結論になると思います。。。
やはり統制環境に重要な欠陥があると判断されるのでしょうかね。。。
Posted by: 丸山満彦 | 2008.03.30 03:35
>日本の場合は、基本的要素なんていい加減な言葉を使ってしまって論理的な破綻をきたしていますが
全社統制と業務プロセスの内部統制なんて区分を作ったものだから、COSOと比べると分かりづらくなっていますね。本来、業務プロセスの内部統制というのも、構成要素の区分でいえば統制活動ですが、これと全社統制の質問項目にある統制活動との繋がりがよく分からないようなものになってしまっております。原則・判断基準を示すことを避けたがゆえの弊害でしょうか。
実施基準だけを読んでいると、「一部(財務報告に関係しない)不正はあっても、財務報告そのものは正確である」という解釈は可能だと思います。実際、こういう解釈をする人もでてくると思われます。
Posted by: FN | 2008.03.31 09:38
FNさん、コメントありがとうございます。
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こういう解釈をする人もでてくると思われます。
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そうなんですよ。。。判断のぶれが大きいことが問題なんですよね。。。
Posted by: 丸山満彦 | 2008.04.01 02:28
>判断のぶれが大きいことが問題
たしかに判断は難しいかもしれませんが、たとえば成分偽装のような例で、偽装が世間一般に発覚してしまえば、いくら会社が"財務報告に係る内部統制だけは有効です"と主張したところで、会社の主張が説得力を持つことはないでしょう。
ただ、こういった類の事例は現場へのヒアリングの中で発見されるケースも考えられるので、会社側と監査人側で意見対立となる事態も現実に発生するかもしれません。そうなった場合、監査人としては経営者評価に対して不適正意見を出さざるを得ないと思うのですが、いかがでしょう?
Posted by: FN | 2008.04.01 16:06
FNさん、コメントありがとうございます。
FNさんはやっぱりダメだろうという感じですが、監査人がダメとまで断言できないのではないか・・・という意見もあるように思います。
物差しの目盛りがくっきりしていて、物差しで計る対象のかっちりしたものであれば、正確に測れるかもしれませんが、物差しの目盛りもぼやけていて、計る対象もふわふわでは、図る人によって異なる結果が出やすいですよね。。。
今回の制度はそんな感じなんですよね。。。
Posted by: 丸山満彦 | 2008.04.01 16:53
>監査人がダメとまで断言できないのではないか・・・という意見もあるように思います
そう考える人も当然いると思います。私自身は、制度の制定意図から考えてこうなるはずだ、ということで意見を述べています。私は勝手に断言してますが、公表された実施基準だけからでは、断言は必ずしも出来ないように思います。物差しの目盛がぼやけているというか、人によって違う物差しで計ることになってしまうのでは、という気がします。
日本の実施基準はいわゆるSmall COSOの影響を強く受けていますが、Small COSOは財務報告目的に絞っていることと、および全社レベルとプロセスレベルという区分を導入していることから、Small COSOがあいまいな実施基準の原因の一つ、という言い方もできるかもしれません。
Posted by: FN | 2008.04.01 20:47
FNさん、コメントありがとうございます。
物差しがぼやけているのか、人によって違う物差しを持ちながら議論しているのかは良くわからないのですが、、、
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成分偽装が行われていることを知っていながら、売上高が減るのでそれを是正しようとしなかった経営者がいる企業において、財務報告に係る内部統制は成分偽装とは関係ないので問題ない。統制環境は有効である。
と評価できるのでしょうか?
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ということを考えてみるとやはり難しい問題ですよね。。。
どういう条件がそろえば、財務報告に係る内部統制が有効といえるのか?
どういう条件があれば、財務報告に係る内部統制に重要な欠陥があるといわなければならないのか?
論理的につめてみたいところではありますね。。。
Posted by: 丸山満彦 | 2008.04.01 23:03
金融庁の基準だと、内部統制が有効 = 重要な欠陥がない、重要な欠陥 = 財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備、となってます。
とすれば、考えるべきは財務報告への重要な影響は何なのか、ということになります。
実施基準では、重要な欠陥を「内部統制の不備のうち、一定の金額を上回る虚偽記載、又は質的に重要な虚偽記載をもたらす可能性が高いもの」と定義しています。つまり、金額的重要性と質的重要性の二通りで判断しなさい、ということですね。
以下、例題を当てはめて考えて見ます。
①金額的重要性
成分偽装を行って販売した場合の売上と、正しい成分表示で販売した場合で想定される売上を比べ、その差が大きいと想定されるのならば、金額的な重要性は大きいと考えられます。会社の主力製品であれば、これに該当する可能性は高そうです。
では、その会社の主力製品ではない場合はどうかというと、必ずしも金額的な影響は大きなものではない可能性も高そうです。そうなると、重要な欠陥とまでは呼べず、せいぜいが不備になるのではないかと思われます。
ただ、金額的な重要性を判定する際の基準値をどうするのか、という問題はあります。一般的には税引前利益の5%なのでしょうが、もともと成分偽装の売上をもとに利益を算出していた場合、単純に税引前利益の5%を使うのはどうなのか、という気がします。そうなると、ただでさえ恣意的な重要性の判断基準値が、より一層恣意的になりそうです。
②質的な重要性
質的な重要性を考える例示として、実施基準では以下のものが記載されています。
・上場廃止基準 ・財務制限条項 ・関連当事者との取引 ・大株主の状況
成分偽装という行為が、上記のような質的重要性を考える際の要件に該当するのかというと、実施基準では良く分かりません。感覚的には、成分偽装というのは質的に重要な問題であると思うのですが、それが重要な欠陥になるのかというと、自信を持って断言はできません。
結局は、財務報告ということの範囲をどこまでを考えるか、という所に行き着くと思います。つまり、成分偽装品の売上という本来は適切でない売上を、会計システムに放り込むことは正しい財務報告なのか、という問題になるのではないでしょうか?もちろん、経理処理等の業務プロセスは有効であるという前提付きですが。
しかし、改めて考えてみると、重要な欠陥の条件を論理的につめるのは難しいですね。
Posted by: FN | 2008.04.02 13:13
FNさん、コメントありがとうございます。
定義から丁寧に説明していただきありがとうございます。
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重要な欠陥=内部統制の不備のうち、一定の金額を上回る虚偽記載、又は質的に重要な虚偽記載をもたらす可能性が高いもの(不備)。
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で、成分偽装をするという経営者の倫理観(統制環境の一部)に不備があるということは、粉飾決算をするということも想定される。
もしそうであれば、財務報告に係る内部統制の不備になる。
で、その影響は非常に大きく、かつ発生の可能性も高いと見積もれるため、重要な欠陥となる。
という感じでしょうかね。。。
Posted by: 丸山満彦 | 2008.04.03 05:35
企業自身の内部統制評価について、最終的な責任者は経営者ですが、実際の評価者は内部監査部門というケースは多いと思われます。このときに、以下のような事例が現実に発生しそうな気がするのは私だけでしょうか?
①内部監査部門は成分偽装の話を発見し、財務報告に係る内部統制は重要な欠陥と判定を下す
②ところが最終責任者である経営者は、内部監査部門の評価を覆して、成分偽装は財務報告に関係ないので内部統制は有効である、という評価を行う
③監査人が内部統制監査を進める中で、内部監査部門へのヒアリング等により上記のような実態を発見
こういったことが単なる思考実験で終わることを祈りたいものです。
Posted by: FN | 2008.04.03 23:18
FNさん、コメントありがとうございます。
評価・測定する対象と物差しの目盛りがぼやけているのでこういう話がでてくるのではないかと思います。。。
それから、事務所で他の人と話をしていましたが、監査人って見つけてしまうと、あれやこれや言い始めますが、見つからなかったら・・・
ご参考まで(笑)
Posted by: 丸山満彦 | 2008.04.04 09:16