金融審議会 会計士に不正通報義務を課す方向
こんにちは、丸山満彦です。この件については、たまたま会社の同僚ともちょっと話をしていたんですけどね・・・
■日経新聞
・2006.12.16 会計士に不正通報義務を・金融審提言へ
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金融審議会(首相の諮問機関)は公認会計士が粉飾決算など不正を発見した場合、金融庁に通報を義務づけることを提言する方針を固めた。
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同様に社内の目付け役である監査役の権限も強化し、経営者の独断専行に歯止めをかける。金融庁は2008年度の導入を目指す。
金融庁が18日の金融審で提出する報告書原案の中に盛り込まれる。22日にも最終決定し公表する。金融庁は証券取引法などを改正し、少なくとも約3800社の上場企業の監査を対象にする方向で調整する。
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紙面では、もっと詳しく書かれていて
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新ルールでは企業の粉飾決算が発覚した後に、金融庁への通報を怠ったことがわかれば、その会計士は懲戒処分の対象となる可能性が高い。
金融審は会計士による外部監査だけでなく、監査役による内部監査も強化する。現在は監査法人を選んだり、監査法人に払う報酬額を決定したりする権限は経営陣にあるが、この権限を監査役に移す方向で調整に入る。
監査法人が監査契約を破棄されるのを恐れて十分な調査をしないといった事態が起きるのを防ぐ狙い。
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いきなり金融庁に不正を報告ということではなくて、経営者、監査役に不正を報告し、そのための是正が働かない場合は、金融庁に不正を通報するということになると思うんです。で、通報を怠った会計士は懲戒と・・・。たぶん、そんなイメージなのだろうと思います。
実際に通報が金融庁にたくさんあがってくるのを意図しているというよりも、このような制度があることによる不正の抑止効果を期待しているのだろうと思います。
気になる点は、不正といっても
1.証拠が十分にそろっていない(事実認定が十分に行えない)ので明らかに黒といえない
2.判断規準が不明確で明らかに黒といえない
状況があるわけですね。また、
3.不正の金額の重要性をどのようにするのか
明確な不正の場合と、不正のある可能性が高い場合とで金額基準を変えるのか・・・
まぁ、金融庁による懲戒処分が後ろに控えている以上、会計士も真剣に対応するでしょうから、おのずと会計士が企業に求める姿勢も変わってくるでしょうね・・・
監査役に監査法人等の選任や報酬額を決定する権限を移すことについては、一定の効果があるとは思いますが、会社によっては社長が監査役を実質的に決めていますからね。。。しかも、監査役も社長に報告(レポート)している感覚のところもあるし。。。そういう会社では、実質的な効果はあまり変わらないかもしれません。
監査法人が監査契約を破棄するのを恐れて・・・についてですが、少なくともいろいろな大手の監査法人の方と話をしているとそういう雰囲気ではなくて、
1.これからは誰も引き受けてくれない会社が増えていくのではないか。。。
2.大手の監査法人が引き受けないところは中小の監査法人が引き受けることになりやすく、そうなれば、大手の監査法人が監査している会社と中小の監査法人が監査している会社に対する信頼性に差が出ることになるのではないか(つまり、大手の監査法人が監査していることと中小の監査法人が監査していることの差が投資家の統投資判断に大きな影響を与えることになるのではないか)
といった雰囲気ですよね。。。
行政の権限を大きくすることは必ずしも悪いこととは限らないのは十分にわかっているのですが、行政の権限を大きくすることの経済的な効果について経済学的な見地からも、もう少し考慮したほうがよいかもしれませんね。
【参考】
■金融庁 金融審議会
●公認会計士制度部会
・第13回 平成18年12月8日(金) 資料
■このブログ
・2006.10.28 日本公認会計士協会 監査基準委員会報告書第35号「財務諸表の監査における不正への対応」
・・監査基準委員会報告書第35号「財務諸表の監査における不正への対応」
・2006.10.18 日本監査研究学会 監査事務所の強制的ローテーションに関する実態調査研究特別委員会報告書
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Comments
丸山 様
夏井です。
「不正」の定義ってできるんでしょうか?
一般論としてはできないと思います。
しかし、このような制度を導入する場合には、この制度の下における「不正」の定義を明確にやっておかないと、当然に混乱が生じますね。
犯罪行為、法令違反行為、企業会計原則などに違反する行為については、「不正」な行為に含めるものとして定義してもよいでしょう。
「価値判断」を加えないと不正であるのかないのかがわからない事柄については、かなり難しい問題が伏在しており、なかなか難しいです。
また、懲戒処分につながる制度でもあるので、概念を明確化することが大事です。とりわけ、同じ用語で示される概念が企業会計の分野と法律の分野とで少し異なる意味で用いられることがある場合(例:利益相反行為)、十分に慎重なやり方をしないと、いざ裁判になったときに会計士や監督官庁にとっては想定外(←まともな法律家にとっては明々白々に想定内)の事態が発生しないとも限りません。(笑)
Posted by: 夏井高人 | 2006.12.16 10:17
夏井先生、コメントありがとうございます。不正の定義については、国際会計士連盟の監査基準を受けて、日本公認会計士協会のほうでも定義を定めているのですが、法律家がイメージする範囲とはかなり違ったイメージになりますね。。。
このあたりは、よく整理しておかないと、法律問題となったときに、大丈夫だと思っていたのに・・・と言う話になるかもしれませんね。内輪のルールが社会では別の評価を受けることがありますからね・・・確かに・・・。
Posted by: 丸山満彦 | 2006.12.16 11:28
丸山 様
夏井です。
そうなんですよ。
たとえば,先のコメントの中で例としてあげた「利益相反行為」の場合には,現実にあちこちで迷惑というべきか大混乱が発生しています。ある特定の公認会計士だけなのかもしれませんが,法律家として理解するところによれば「明らかにその公認会計士の側の理解が間違っているし,どうやっても日本の裁判所で通ることがない」ということが明々白々にわかっているのに,その公認会計士が頑として譲らない。たしかに,根拠とする公式文書の中にはその公認会計士がそのように理解するのも無理はないと思われるようなことが書いてある。
というわけで,既に確立されている法律用語と同じ用語を別の特殊分野で用いることは非常にまずい結果をもたらす可能性があると信じています。現実にかなり迷惑なことが多数あります。
このような場合,法律用語とは全く異なる意味を連想させるような別の用語を使ってほしいし,仮にどうしても同じ用語を用いたいというのであれば,きちんとした法律家とよく相談した上で,その用語の定義を明確に定め,あくまでも企業会計の世界のみで用いる概念だという限定を付して用いるべきだろうと思います。
それでなくても不勉強なコンサルタントが生半可な理解で仕事をしているために社会に大混乱をもたらすことが少なくないというのに,まともな公認会計士まで確信犯的に間違った「語」を用いるとなればどうにも収拾がつかない恐るべき事態を招くことになるでしょう。
もちろん,逆もまた真であり,企業会計の分野で確立されている概念を,本来の定義や用法とは異なる別の意味をもつものとして法律家が勝手に使ってしまうと,これまた大混乱が発生しますし,世間に対してひどい迷惑を与えてしまうことになります。まして,生半可な理解で誤用がなされると大変な事態が発生しています。最近の裁判所の判決例や著名弁護士事務所が作成した準備書面等の中にもそのような例が散見されるので,とても苦慮しているところです。
いずれにしても,「ボーダーレスの時代」というのは素人でも他分野に簡単に参加できるような気楽な場所がどんどんひらける時代なのではなく,ある特定の分野の専門家が別の複数の専門分野についても真の専門家として食っていけるくらいのとてつもない分量の専門知識・技能などを常に積極的にしっかりと修得し続けないととても飯を食っていけない世界,ある意味でスーパーマンであることが当然に求められる世界なのだということを自覚すべきだと思います。
そして,もし自分はスーパーマンではないというのであれば,スーパーマンになることをさっさと諦め,常に他の分野の専門家の専門性を謙虚に尊重し,自分自身については限定的な能力しか持たない者としてかなり謙抑的に行動すべきだというのが正しい生き方だと思っておりますし,そのような行動こそがまさに職業倫理に適う行動だと思っております。
Posted by: 夏井高人 | 2006.12.17 12:26
夏井先生、コメントありがとうございます。
専門分野が深くなってきている反面、専門分野をまたぐ知識も必要となってきていますから、本当にこれからは大変な時代だと思っています。
自分の専門領域以外の専門領域はやはりその道の人にかなうわけがないので、他の専門家の意見を聞き判断しなければならないケースが増えてきますね。そういう意味でも、自分の専門領域以外の専門家との連携は非常に重要だと思っています。ただ、その場合であっても、他の専門家の領域の基礎的な知識はないと、コミュニケーションがまともにできないということもあるので、やっぱり他の専門家の領域の知識も一定以上いりますよね。。。
=>ということで、私も努力しますが、夏井先生、よろしくお願いします。。。
Posted by: 丸山満彦 | 2006.12.18 08:12