住基ネット判決 新聞社の論調
こんにちは、丸山満彦です。住基ネットの控訴審判決が大阪高裁、名古屋高裁と続き、その判決がいずれも地裁判決をひっくり返す内容で、かつそれぞれ判決が分かれたので、新聞でもとりあげられていますね。
■朝日新聞
・2006.12.12 住基ネット、揺れる安全 危険評価、割れる司法
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住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)はどこまで安全なのか。11日にあった名古屋高裁金沢支部判決は、住基ネットを巡るトラブルの具体例を示しながら、同ネット自体の危険性を否定した。一方、11月の大阪高裁判決は、実例を挙げた上で危険性を認めた。判断は分かれたが、住民基本台帳カード(住基カード)の不正取得など同ネットをめぐる被害が相次いでいる実態は否定されなかった。国の使途が一方的に拡大し、市民には浸透しない同ネットの現状が問われている。
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気になる判断の分かれ目として、、、
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・今年3月、北海道斜里町の町職員の私有パソコンから、住基ネット端末の接続パスワードなどがファイル交換ソフト「ウィニー」を通じてネットに流出した。
・昨年4~12月、北海道帯広市の嘱託職員が、住民基本台帳の情報が入ったパソコンを業務以外で閲覧した。
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名古屋高裁金沢支部判決は、
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・末端での例外的な事例で、制度的欠陥を示すものでない。
・(住基ネットに)具体的な危険性があるとはいえない。
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と判断したようですね。
一方、11月の大阪高裁判決は、
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・防衛庁が自衛官募集に利用するため、一部自治体から同ネットに登録された本人確認情報以外の「健康状態」「職業」などの情報も受け取る取り決めをしていた
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ことについて、
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・住基ネットが際限なく悪用される危険性が具体的に存在することをうかがわせる
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ことについて、ネット自体の欠陥を指摘したようですね。
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カード1枚で他人になりすますこともできるネット社会。被害は後を絶たない。
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と指摘しているとおり、これが米国でも重要視されていて、ID番号ではなく、自分であるというアイデンティティ自体
の危機が問題となっているのだろうと思います。
具体的な数字についても触れているのでちょっと整理
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●総務省?
・初期費用391億円
・年間運用費140億~180億円
●財団法人 社会経済生産性本部(経産省所管) の専門委員会
・国民・行政に『年間183億円』のベネフィット(利益) 2006.05
●総務省
・住基カード発行枚数91万枚(2006.03)
・全国民の0.7%
●住基ネット利用事務数
・想定事務数90(99年導入段階)
・293(2006.05)
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■読売新聞・2006.12.12 [住基ネット]「『離脱の自由』を退けた妥当な判決」
名古屋高裁の判決を追認しているだけで特段の新しい情報や意見はないですね・・・
■毎日新聞
・2006.12.11 解説:住基ネット訴訟・住民逆転敗訴 迫られる不安解消、便益に疑問も
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◇人権感覚乏しい--田島泰彦・上智大文学部新聞学科教授(メディア法)の話
行政側の理由、都合を優先させ、人権感覚に乏しく、司法の役割を軽視した判決といえる。「公共の福祉」をプライバシーより重視しているが、人権を行政の便益と対等に比較することが、おかしいのではないか。1審の金沢地裁判決や、先の大阪高裁判決は、個人情報保護の点で、データマッチングの危険性やチェックする仕組みの欠如を具体的な論拠を挙げて説明した。一方、住民側主張を退けた今回の判決は、その点が行政に甘く、制度について形式的な理解しかしていない。
判決は北海道斜里町の情報流出事件や帯広市の目的外閲覧事件などについても、「例外的事例」として切り捨てた。しかし、これは例外的ではなく、制度の不備を示す象徴的な事件であって、同種事件の発生が懸念される。
ただ、本人確認情報をプライバシー権の対象としている点は評価していいのではないか。
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◇「公共の福祉」妥当--青柳武彦・国際大客員教授(情報法)の話
妥当な判決だ。個人情報といっても、住基ネット上の名前や住所など世間に知られている本人確認情報から、年収や思想信条など秘匿性の高いものまである。後者はプライバシーとして保護すべきだが、前者は活用した方がよい。本人確認情報でも秘匿したいことと結びつけられるとプライバシー侵害だが、問題は結びつけ行為で、本人確認情報自体にプライバシー性はないと考える。本人確認情報の収集、管理を「公共の福祉」のために許されるとした判決に問題はないと思う。
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よく考えていかないといけない話のような気がしますね・・・
Comments
こんばんわ、せろまるでございます。
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・末端での例外的な事例で、制度的欠陥を示すものでない。
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これ、どう考えても致命的な欠陥ではないでしょうか?
住基ネットは、「操作する権限をもつ人が限定されている」というのをセキュリティに掲げているのですが、
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・今年3月、北海道斜里町の町職員の私有パソコンから、住基ネット端末の接続パスワードなどがファイル交換ソフト「ウィニー」を通じてネットに流出した。
・昨年4~12月、北海道帯広市の嘱託職員が、住民基本台帳の情報が入ったパソコンを業務以外で閲覧した。
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操作権限を持つ人のセキュリティ意識が低い。
と同時にセキュリティ教育も不十分。
住民基本台帳の情報を(職場にいる人は)誰でも操作できる。
もしくは、関係ないPCにまで情報が入っている。
これは致命傷・・・
一部とはいえ、そんな運用がなされているシステムをどうして信用できるのか?
どうして具体的な危険がないと判断できるのか?
名古屋高裁の判決はどう考えても納得できません。
田島泰彦・上智大文学部新聞学科教授(メディア法)様の話は、私もぜひとも言いたいことでありましたので賛同できます。
青柳武彦・国際大客員教授(情報法)様の話に関しては、いささか疑問が残ります。
秘匿性が高くないとはいえ、4情報(氏名、生年月日、性別、住所)をみだりに知られることによる被害は大変なものがあると思います。
確かに活用すべきではあるのですが、まず活用するための正しい運用方法、監視方法を確立してからにしていただきたいと思います。
今日1日、この判決について考えてみたのですが、
現状の争点は「プライバシー権の侵害にあたるか否か」ということなのですが、恐らく、根本にあるのは「システムに対する不信」ではないでしょうか。
上記の漏洩事件(自衛隊含む)などにより、ソフトウェアではなく、物理的、人的セキュリティ対策が不十分なことによってもたらされた不信感から、今回の運びへとなったのではないでしょうか。
であるならば、運用面の見直しを行うべきであり、然る対策を行った上で国民の理解を得て運用するべきなのではないでしょうか。
Posted by: せろまる | 2006.12.12 19:50
せろまるさん、コメントありがとうございます。
根本にあるのは、「システムに対する不信」というよりも「行政に対する不信」なのではないでしょうかね。。。
ほとんどの人はいい人だと思うのですが・・・
Posted by: 丸山満彦 | 2006.12.13 08:40
↓こんな事件があるとなると、システムから離脱したくなるかも....。
>中3、姉になりすましAV志願 住基カードを入手し面接
http://www.asahi.com/national/update/1214/TKY200612140223.html
Posted by: なかじま | 2006.12.14 17:47
なかじまさん、コメントありがとうございます。デジタル化されたIDを一度取得しhて本人に成りすましてしまうと、デジタル上では常に本人になりすませられることになりますね。。。
時々デジタルIDとリアルとの間の棚卸をしないといけないかもしれませんね。。。
Posted by: 丸山満彦 | 2006.12.15 08:59
デジタルIDとリアルの間の棚卸しは、電子証明書の有効期限みたいなものでやるのがいいとは思いますが、問題はIDの発行を行うときのリアルに対する本人確認方法の運用がザルになっていた、ということだと思うんですね。
住民基本台帳カードが公的な身分証明書類として機能するということは、不正取得し悪用することで大きな被害が発生するということですから。
私が引用した事件では本人には被害がなかった可能性もあるとは思いますけどね。
そういった意味でも、この事件に限らず住民基本台帳ネットワークのシステムや運用が安全か?といわれたら、疑問符をつけたくはなります。
そうしたら、そんなところにある個人情報は削除してもらいたくなるのも分かります。
Posted by: なかじま | 2006.12.15 11:16
なかじまさん、コメントありがとうございます。情報システムで取り扱われる情報の保護を考える場合、システムのメカニズムだけを評価しても仕方がないですね。そのシステムを利用する人間を含めた全体の運用で評価しないと・・・。
となると、人間が行う運用にはバラつきがありますから、同じシステムであっても、比較的安全な場合もあれば、かなり安全ではない場合もありえますね。。。
Posted by: 丸山満彦 | 2006.12.16 08:57