自民党 電子投票促進へ交付金?
こんにちは、丸山満彦です。自民党が普及が遅れている電子投票の利用を拡大するために「電子投票国政選挙導入交付金」(仮称)を新設し、地方自治体の費用負担を軽減する仕組みを考えているようですね。
■日経新聞
・2006.10.16 電子投票促進へ新交付金、自民が検討
夕刊にはもう少し詳細に書かれています。それによると・・・
現在は地方選挙のみに認められている電子投票制度ですが、条例で定めた自治体では国政選挙へも適用を解禁するようですね。
電子投票をするためには、機器の購入やレンタルなどでコストがかかるわけですが、それを交付金で費用負担しようという考えのようです。全国5万3000箇所の投票所に5~6台ずつ電子投票機を設置すれば最大で1600億円程度の財政措置が必要と見積もっているようです。
コスト削減のためのIT化であれば、財源の措置は必要なくても経済原理で自然と導入が進むように思うのですが、本当のところはどうなんですかね・・・。
この点については、東京都が2002年に試算していますね。その後の動向で状況は違っているのかもしれませんが・・・
■東京都議会 総務委員会の記録
・2002.11.07 東京都議会総務委員会速記録第十六号
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〇押切選挙管理委員会事務局長 去る十月二十二日の当委員会でご要求のございました資料につきまして、ご説明を申し上げます。
お手元にお配りしてございます要求資料、電子投票と自書式投票との費用比較をごらんいただきたいと存じます。
まず、1の試算の前提条件でございますが、試算では、区部、市部の平均的なモデルを設定し、電子投票特例法の枠組みに基づいた単独の地方選挙を想定いたしました。
まず、区部でございますが、有権者は三十万人、投票所数は五十カ所、投票所における電子投票機の台数は三百五十台と想定いたしました。
市部におきましては、有権者十二万人、投票所数二十五カ所、投票所における電子投票機の台数は百五十台と想定いたしました。
この前提条件のもとに行った費用試算結果を、下段の2にお示ししてございます。
区部、市部ごとに電子投票と自書式投票の場合における投票所経費及び開票所経費について試算をいたしたものでございます。
まず、区部の合計の欄をごらんいただきますと、電子投票においては三億百九十万円となり、自書式投票の四千三百九十万円と比べ、電子投票に要する費用の方が二億五千八百万円高くなっております。
これは、電子投票では、開票所経費に関して開票事務に当たる職員の人件費等に要する費用が減るものの、投票所経費に関しまして投票機導入等の初期整備費用を多く要するためでございます。
次に、市部でございますが、合計の欄をごらんいただきますと、電子投票においては一億三千九百三十万円となり、自書式投票の千七百五十万円と比べ、やはり電子投票に要する費用の方が一億二千百八十万円高くなっております。
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〇押切選挙管理委員会事務局長 電子投票の費用の試算についてのご質問でございますが、これは都の電子投票研究会で行った試算によるものでございますが、有権者三十万人規模の区部の自治体で見ますと、導入費用の約二億六千万円のほとんどが投票所に係る初期整備費用でございます。
その内訳は、電子投票機の購入経費が一億五千万で費用の約六割を占めています。これは電子投票機を購入する場合で、その単価を一台四十万円とし、この四十万円というのは国の補助金に出てきます一台当たりの単価でございますが、一台四十万円として五十カ所の投票所に設置することとした場合の経費でございます。また、投票カードを発行する機器など、投票に必要なその他の機器の経費が約六千二百万円、投票カードが約二千六百万円などとなっております。
〇藤井委員 そうしますと、電子投票機などの機器類の費用が二億六千万円のほとんどを占めるというわけですけれども、これが安くならないとコストの引き下げは難しいということになるわけでして、今の試算は機器を購入するという前提でございましたが、新見市の場合はこの電子投票機をレンタルで借りたというふうに聞いております。レンタルならもうちょっと費用は安くなるんじゃないでしょうか。
〇押切選挙管理委員会事務局長 新見市の場合、投票所が四十三カ所で合計百五十二台の電子投票機が設置されましたが、その投票機など関連機器のレンタル料が約二百六十万円だったと聞いておりますが、これは我が国の初の電子投票ということもございまして極めて低額で、余り参考になるものではないと考えております。
現段階では、レンタルの場合、電子投票機一台が幾らぐらいになるのか、メーカー側でもはっきりしないという状況でございます。仮にレンタル料を購入経費の半分といたしますと、初期整備費用全体も約半分になり、初回の導入時経費については削減することができますが、二回目の選挙費用もほぼ同額のレンタル料が必要となり、二回の選挙費用の合計で見ますと、レンタルでも購入でもそれほど変わらなくなってしまう可能性がございます。しかし、これはあくまでも試算上の話でございまして、実際には契約で費用が確定することになりますが、全国の自治体での導入の普及拡大をすることによりまして機器のコストも低下するものと考えております。
〇藤井委員 今後、電子投票の導入が全国的に進めばコストが下がるというふうに思いますけれども、コストが下がらなければ電子投票の導入が進まないという、鶏が先か卵が先かのような議論になってしまうわけですけれども、先ほど局長の答弁にありましたように、国政選挙への導入が決まれば電子投票機のコストの削減などが可能である、あるいは財政負担、財政的な負担の節減が図られるというふうに考えられますけれども、その見通しについてはどうでしょうか。
〇押切選挙管理委員会事務局長 国政選挙の見通しについてでございますが、電子投票特例法は、地方公共団体の選挙に限り電子投票を可能とするもので、国政選挙は、委員ご指摘のように対象となっておりませんが、その背景につきましては、総務省によりますと、投票方法の変更は広く有権者の合意を得て進めていくべきものであり、国政選挙の投票方法の変更については、現時点では広く合意が得られたという状況でないとしております。また、国政選挙への導入につきましては、まず地方選挙での電子投票の実施の積み重ねと、そこで把握される課題の検証等を踏まえ、国民的合意がとれた段階で導入すべきとしております。
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また、可児市の地方選で選挙が無効になった話もあるし、ちょっと心配な面もありますね。。。
【参考】
■総務省 選挙制度改革
■このブログ
●電子投票
・2006.09.18 総務省 電子投票システムの信頼性向上に向けた方策の基本的方向 + 監査人の保証意見について
・2006.09.17 プリンストン大学 電子投票マシンの安全性について実験すると・・・
・2006.05.25 今夏の参院選で電子投票も行える?
・2006.02.11 総務省試算 電子投票を全面導入すると国費負担1400億円
・2005.11.15 総務省 電子投票システム調査検討会発足
・2005.07.19 総務省 電子投票の普及促進 有識者検討会設置
・2005.07.10 可児市市議選 選挙無効確定!
・2005.03.11 名古屋高裁 可児市電子投票 無効
Comments
人件費が減るのがどれくらいなのか?という問題だと思っています。
わたしは何度も開票立会人をやっていますが、実際の開票作業従事者は区役所の職員です。
だから人件費は深夜勤務・休日出勤などで、代休が効けば、一人あたりの人件費はほんの僅か。
開票立会人や投票立会人など一般人の手当は電子投票になっても変わらないでしょう。
そうなると、開票時間の短縮が出来るようになるのかな?
そもそも投票所に設置した端末から直接リアルタイムで投票数を公表するわけにはいかないから、電子的な開票手続きは必要なわけですよね。
つまり開票所は無くならない。
各投票所に通信回線を回すのか、それとも電子データを開票所に運ぶのか?といった問題もありますね。
いずれにしても、初期費用はもちろん毎回の選挙ごとの投票所設置の費用が現在の何倍かになります。
人件費はおそらく事実上減らない。(減る理由がない)
確かに開票作業に100人以上動員しますが、100人の残業代が人件費でそれもせいぜい数時間分です。
別に開票する人を雇うわけではない。
変わるのは開票時間がかなり早くなる。
2時間が10分になるとかですね。
このために幾ら掛けることが出来るのか?だと思いますよ。
Posted by: 酔うぞ | 2006.10.17 18:16
丸山先生、お久しぶりです。
現状では、導入自治体が増えないからコストが下がらない、コストが下がらないから導入自治体が増えないという悪循環に陥っており、補助金を付けることで導入自治体を増やす効果はあるでしょう。
酔うぞさんがご指摘の通り、いわゆる第一段階の電子投票では、人件費はあまり減りませんね。
やはり電子投票のいろいろな効果が出てくるのは第二段階以降なので、その意味で韓国が一気に第二段階の電子投票を2008年にトラブルなく実施できるかどうか、興味深いと思います。
Posted by: 湯淺 | 2006.10.17 23:13
酔うぞさん、湯淺先生コメントありがとうございます。
総務省 電子機器利用による選挙システム研究会中間報告
http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/pdf/020201_2.pdf
でいう
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○第1段階
選挙人が指定された投票所において電子投票機を用いて投票する段階
○第2段階
指定された投票所以外の投票所においても投票できる段階
○第3段階
投票所での投票を義務づけず、個人の所有するコンピュータ端末を用いて投票する段階
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のうち、第一段階は、どうやら電子投票のほうがコストがかかりそうですね。
まず、目的が同じである場合はIT化するかしないかは、IT化するコストとIT化しない場合のコストを比較することになります。単純な話です。
現在の投票を単純に電子投票に置き換えるかどうかを検討する場合は、
1.電子投票にするために係るコスト(導入コスト+運用コストの現在価値)と
2.電子投票せずに運用しつづけるコストの現在価値
を比較することになりますね。
で、東京都は平成14年の段階では、電子投票にしないほうがよいと判断したわけです。
投票率を上げるためのコストでも同じことが言えます。
投票率を30%から40%に上げるために、
1.電子投票を導入する
2.広報活動を続ける
という方法がありえるわけですが、1と2の現在価値を比較してどちらが費用が安いか・・・ということになりますね(ただし、その測定や見積もりが若干難しそうですが・・・)
行政機関のIT化でありがちなのは、既存のサービスを維持して、なおかつ上乗せでIT化をするために全体としてのコストがあがるということですね。
第一段階から第二段階への以降で効果が期待できるのは、投票機会(手段の改善)の増加による投票率の増加ですが、どれほど効果があるのか想像できません。まぁ、コンビニエンスストアで投票できるようになると効果が高いかも知れませんが・・・。
IT化の効果が明確にでそうなのは、第三段階で、かつ既存の投票所をほとんど全て廃止してしまうという場合でしょうね。
投票率のアップを図ろうとするのであれば、手段だけでなく、中身(争点となる政策の重要性と国政治に対する国民の参加意識など)も改善していかなくてはならないのでしょうね。
Posted by: 丸山満彦 | 2006.10.18 09:06