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2006.05.08

電子申告・納税制度

 こんにちは、丸山満彦です。今朝の日経新聞の一面には、電子納税制度の話がありました。2005年度の電子申告の実績は役11万200件で、2004年度の倍!となったようですが、全体の利用率は0.4%だったようです。2010年度に50%を目指しているようですが、実現が困難ということで、何らかの対策が必要ということのようですね。

 
■日経新聞
・2006.05.08 電子納税に税優遇 政府検討来年度にも 利用テコ入れ 24時間受付早期還付も

■日経NET
・2006.05.08 電子納税、税制優遇を検討・政府

 この記事によると、税制優遇か、財政的支援(補助金?)により電子申告・納税の促進を図ることを考えているようですね。
 税制優遇の面からは、高齢者など電子申告・納税制度の利用が困難な人との間の税負担の公平性の観点から問題視する意見もあると書かれています。

 電子政府の目的は何かということを初めに考えてから議論を整理するほうがよいのではないあかなぁ・・・と思います。
 無色透明の個人的立場としては、電子政府の目的としては、「行政の効率化」一本に絞るほうがわかりやすく、効果も大きいのではないかと思ったりしています。電子政府関係の有識者として各種政府の委員になっている人と最近話をしましたが、同じような議論となりました。
 「国民の利便性の向上」ということもよく言われるのですが、それは派生的なもの、副次的なもの、優先順位2番であることを明確にしたほうがよいと思うんですね。国民の利便性が高まり利用が増加することにより結果的に行政事務の効率化効果が大きくなる。という整理のほうがよいような気がします。。。

 行政事務の効率化は重要な問題ですね。普通の会社では、コンピュータの利用は主に効率化のために行いますよね。コンピュータで行う作業は、究極的には人間でも出来る話だと思っています。ただ、コンピュータが1秒でする作業も人間がすると1時間かかるので、コンピュータでしたほうがよい。という話だと思います。ロジックが決まった単純作業については人間が行うよりもコンピュータのほうが圧倒的に正確にすばやくすることができます。ただし、判断を行うためのロジックを明確に定義できない場合はコンピュータでは結果をだせません。そこは人間の仕事だろうと思います。
 なので、行政機関においても、単純作業はできるだけコンピュータを利用するというのは行政事務の効率化のためには非常によいのだろうと思います。

 ただ、その先が問題で、
1)効率化により享受した便益を誰にどのように還元するのか
2)コンピュータによりとって換わられた仕事をしていた職員がどのような行政サービスを行うのか(配置転換)・・・
ということなのだろうと思います。

 民間企業の場合は、必要となくなった人をクビにすることができます。日本では、そこまでしない会社がほとんどだろうと思いますが、たとえば新しい事業分野でコンピュータの利用ができない領域に人員をシフトしていきます。でなければ、コンピュータへの投資と人への投資の二重投資になってしまいますからね。。。
 民間企業の場合は投資効果は利益として明確に現れ株主や市場等から厳しく追及されますので、なんらかの対策が行われるわけです。行政機関の場合も、会計検査院や国会で厳しく追及されそうなものですが、どうなのでしょうか・・・。予算審議は結構議論されているけど、予算を使い終わった後の効果について国会でどの程度審議されているのでしょうかねぇ・・・。総務省が行っている行政評価はどれほど活用されているのかなぁ・・・。

 話を電子申告・納税制度に戻すと・・・、
2)については、消費税の免税点引き下げによる申告者の増加に対する脱税の摘発要員の増加を考えているようです。
1)については、難しいのかもしれませんね。
 ただ、電子納税をする場合には、住民基本台帳カードを取得し、電子証明書を利用する必要があり、また、住民基本台帳カードを利用するためのカードリーダ(数千円)も購入する必要があるので、いわば、行政事務の効率化のために納税者が作業をしているわけですよね。。。であれば、2つのサービスがあると考えてもよいのかもしれません。

(1)ラクラクパック=特別な装置を必要とせず、気軽に利用できる書面によるサービス
(2)お得パック=PC、ネットワーク環境、住民基本台帳カードやカードリーダの準備が必要で、かつコンピュータへの入力が必要だが、職員が行う業務の一部代行分の作業料を割引(税額控除)又はキックバック(補助金)してくれる電子申告・納税サービス

 デジタルデバイド対策は、電子申告・納税制度以外も合わせて別途考える。というのも手ですね。

ちなみに、新聞記事では海外事例ものっていまして、
・韓国では、約1,200円から2,400円
・フランスでは、約2,900円
の税額控除があるようです。補助金は行政事務コストがかかりすぎるような気もしますね・・・。

 電子申告・納税制度の普及による効果と税額控除による税収減収分(又は補助金支給額)を比較して、効果のほうが大きければ、国民全体としても反対しないのではないでしょうかね。(差し引きの便益は国民に広く還元されることになる)
 ただ、見積もりだけでなく、実際の効果についての測定結果を国民にわかりやすく、かつ、信頼される状態で提供する必要がありますけど・・・
 
まぁ、民間のように自由にできないことはわかっているのですが、いまのままでは人とコンピュータへの二重投資に終わってしまうような気がします。
 

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Comments

こんにちは。

電子申告ですが件数としてはものすごく多い中小企業に現状ではコストはかかるのにメリットがほとんど無い場合が多いのです。
特に税理士に申告作業をさせている中小企業ではもともと提出等ほとんどの申告作業は税理士が行うので、電子申告への移行をしても自らの手間は変わりません。
この状況ではやっぱり税額控除でも無いと移行は進まないと思います。

ちなみに税理士会は「職域確保」という言葉を錦の御旗に電子申告を進めたがっています。ここでは消費者利益は考慮されていません。これも問題だと思います。

Posted by: とある税理士 | 2006.05.08 18:32

とある税理士さん、コメントありがとうございます。
昨年の同じ時期にこのブログでも
・2005.05.06 結局彼は、国税電子申告(e-tax)をしないことにしたようだ・・・
を書いているのですが、やっぱり費用の割りにベネフィットがないですね。
一人が電子申告・納税制度を利用した場合に節約できる行政事務コスト以内の税額控除なら、問題ないようにも思いますね。
 カードリーダは数千円で購入可能なようですね。
 職域確保も社会的便益と一致していれば問題ないのですが、この場合はどうなのでしょうね・・・。

Posted by: 丸山満彦 | 2006.05.08 22:14

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