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2006.04.19

米国が内部統制監査報告書においてダイレクトレポーティング方式を採用した理由

 こんにちは、丸山満彦です。所属している日本監査研究学会より、現代監査No.16が送付されてきたのですが、その中に興味深い論文がありました。「わが国における内部統制監査の課題 -井上善弘」です。財務報告に係る内部統制の監査において、日本における方法が「監査」の保証水準を達成できるのか・・・という点について検討をしています。

 
 井上先生は、日本では内部統制監査におけるダイレクトレポーティング方式は見送り、あくまでも経営者による内部統制の評価結果のみをその対象とする方式と採用したが、PCAOB2号では、それでは高水準の保証ができないとして、ダイレクトレポーティング方式を採用したと説明されていると指摘している。

米国基準では
1)財務報告に係る内部統制の有効性に関する経営者の評価
2)財務報告に係る内部統制の有効性に関する監査人の意見
を監査報告書で表明しなければならないわけですが(PCAOB No.2 par.167)、その背景については次のように説明されています。

=====
PCAOB No.2 APPENDIX E
BACKGROUND AND BASIS FOR CONCLUSIONS

E17. The Board concluded that the auditor must obtain a high level of assurance that the conclusion expressed in management's assessment is correct to provide an opinion on management's assessment. An auditing process restricted to evaluating what management has done would not provide the auditor with a sufficiently high level of assurance that management's conclusion is correct. Instead, it is necessary for the auditor to evaluate management's assessment process to be satisfied that management has an appropriate basis for its statement, or assertion, about the effectiveness of the company's internal control over financial reporting. It also is necessary for the auditor to directly test the effectiveness of internal control over financial reporting to be satisfied that management's conclusion is correct, and that management's assertion is fairly stated.
=====

監査人は、経営者による評価のなかで表明されている結論(たとえば、内部統制は有効である)が適正であることについて高水準の保証をしなければならないわけであるが、経営者が行ったこと(経営者の評価結果及び評価プロセス)に監査手続を限定すると、経営者の結論が正しいことについての高水準の保証を監査人は得られない、と説明しています。

一方、日本の内部統制部会案では、
=====
Ⅲ.財務報告に係る内部統制の監査
4.監査人の報告
(4)意見に関する除外
 監査人は、内部統制報告書において、経営者が決定した評価範囲、評価手続、及び評価結果に関して不適切なものがあり、無限定適正意見を表明することができない場合は、・・・
=====
とあり、経営者が決定した評価範囲、評価手続、及び評価結果に関して不適切なものがあるかどうかで、監査意見を形成することになっています。内部統制報告書には、内部統制が有効か否かについての意見が記載されているわけです。監査人が内部統制が有効であるという意見の付された内部統制監査報告書に対して適正意見を表明することは、内部統制が有効であることについて高水準の保証を与えることになるのか・・・ということが問題となりそうですね。少なくともPCAOBは、そうはならないと結論づけたように思えます。

PCAOBの結論が正しいかどうかの問題があるとしても、PCAOBの結論に対する反論が日本には必要となるわけですよね・・・。

日本の基準では、内部統制が有効であるかどうかについては、高水準の保証を与えていない、ただし、経営者の評価プロセスは基準に照らして適正であるということについては、高水準の保証を与えている。ということになるのでしょうか・・・。

そう考えると、日本の基準がダイレクトレポーティング方式を採用しなかったことにより監査の負荷が下がるということについて合理的な説明がつきそうです。

米国では、内部統制の有効性について高水準の保証を与えるための監査手続が必要である。
日本では、内部統制の有効性について高水準の保証を与えるための監査手続が必要ではない。
したがって、日本の内部統制監査の負荷は米国の内部統制監査の負荷より少なくてよい。

【参考】
■このブログ
・2006.03.07 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の制度導入は2009年3月末決算から?



このブログの中の意見は私見であり、所属・関係する組織の意見ではないことをご了承ください。

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(自動エントリです) まず、前回の訂正より ありていに言えば、米国の内部統制監査 [Read More]

Tracked on 2006.11.13 01:00

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