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2006.04.28

統制環境に対する経営者の評価とその監査

 こんにちは、丸山満彦です。COSOの内部統制はCoCoの内部統制と違って、取締役会による経営者の監督という概念が統制環境を通じて内部統制に組み込まれています。内部統制部会の基準も同様ですね。そこで、気になるのが、経営者による経営者の評価、取締役会や監査役会による経営者の監督の評価をどのように経営者評価するのか、その経営者評価をどのように監査人は監査するのか・・・ということですね。

 
 昨年12月に公表された基準のあり方についてを読んでみると、統制環境についてはあまり書き込まれていませんが、以下のような記述があります。

■金融庁 企業会計審議会 内部統制部会
・2005.12.08 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について
=====
(1) 統制環境
 統制環境とは、組織の気風を決定し、組織内のすべての者の統制に対する意識に影響を与えるとともに、他の基本的要素の基礎をなし、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング及びITへの対応に影響を及ぼす基盤をいう。
 統制環境としては、例えば、次の事項が挙げられる。

 ① 誠実性及び倫理観
 ② 経営者の意向及び姿勢
 ③ 経営方針及び経営戦略
 ④ 取締役会及び監査役又は監査委員会の有する機能
 ⑤ 組織構造及び慣行
 ⑥ 権限及び職責
 ⑦ 人的資源に対する方針と管理

(注) 財務報告の信頼性に関しては、例えば、利益計上など財務報告に対する姿勢がどのようになっているか、また、取締役会及び監査役又は監査委員会が財務報告プロセスの合理性や内部統制システムの有効性に関して適切な監視を行っているか、さらに、財務報告プロセスや内部統制システムに関する組織的、人的構成がどのようになっているかが挙げられる。
=====
 ここで私が気になったのが、
(1)経営者が経営者自身を評価する場合
(2)経営者が取締役会や監査役(会)、監査委員会からの監督を評価する場合
の2つです。


(1)経営者が経営者自身を評価する場合
 たとえば、COSOでは次のような項目が統制環境の評価項目として例示されています。
=====
【誠実性と倫理的価値観】
・従業員,納入企業,顧客,投資家,債権者,保険会社,競争相手企業,および監査人等との間の関係はどうか(たとえば,経営者は非常に高い倫理観に基づいて経営を行っているか,また,他の人に対してもそのことを強く求めているか,あるいは反対に,倫理的な問題にはほとんど関心を払っていないか)。
=====
 つまり、経営者がどのように倫理に関して関心を払っているかなどを経営者自身が評価するわけです。
 経営者は、おそらく経営者自身は、自らが従業員、納入企業、顧客、投資家等に対していかに誠実に対応し、倫理的問題にも十分に払っていることについての証拠を集めて、自分で評価することになるのでしょう。
 しかし、経営者自身がこの点について内部統制の不備を言うことは果たしてどの程度あるのだろうか・・・と思います。
 たとえば、「従業員のサービス残業を黙認し、本来支払うべき残業代を支払わずそれが財務諸表に計上されていない。これは従業員に対して誠実ではないし、財務報告にも影響が出ている。内部統制の不備、いや、重大な欠陥だ・・・」といって、「財務報告に係る内部統制に重大な欠陥がある」という内部統制報告書を書く経営者は少ないように思うわけです。きっと、就業規則を整備し・・・といった証拠をもって、内部統制は有効とするのではないかと思うわけです。
 こういう場合の監査人の経営者評価に対する有効な監査手続とは、どのようなものがあるのか・・・


(2)経営者が取締役会や監査役(会)、監査委員会からの監督を評価する場合 
 経営者は、金融庁の基準で例示されている、
=====
取締役会及び監査役又は監査委員会が財務報告プロセスの合理性や内部統制システムの有効性に関して適切な監視を行っているか
=====
 を経営者はどのように評価するのか、それを監査人はどのように評価するのか・・・というのが気になります。

 PCOABの場合、統制環境の不備は少なくとも重要な不備と認識します(PCAOB第2号第40項)ので、日本においても重要なポイントとなると思います。こういう統制環境については、監査人が直接評価することになっています。

 実施基準でこのような問題に対してどのように対応するのかはわかりませんが(ないのかも・・・)、実務的には、米国と同様に経営者評価については評価せずに監査人が直接内部統制を評価するのだろうと思います。(ということで、この部分は、経営者評価の評価ではないことになりそうですね。)

【このブログ】
・2006.04.27 内部統制についての監査実施過程
・2006.04.22 内部統制監査の監査意見 日米比較
・2006.04.21 ダイレクトレポーティング方式と言明方式で監査コストが異なるのか
・2006.04.19 米国が内部統制監査報告書においてダイレクトレポーティング方式を採用した理由
・2006.02.18 少なくとも重要な不備とみなさなければならない場合 PCAOB 監査基準書第2号第140項
・2006.02.14 監査人による「経営者による評価プロセスに係る評定」 PCAOB 監査基準書第2号第40項
・2006.02.09 外部監査人は自己評価の結果を利用できない PCAOB 監査基準書第2号第126項
・2006.02.09 外部監査人は内部監査人の結果を利用できる PCAOB 監査基準書第2号第121項




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