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2005.03.28

個人情報保護法 頭の体操16

 こんにちは、丸山満彦です。雇用情報関係になるのでしょうか?

 
【Q】
私は、とある会社の総務部に勤めています。時々次のような電話がかかってきます。

①A社のものですが、当社で採用を予定しております山田太郎さんについてお尋ねしたいことがあります。履歴書によると以前貴社で働いていたことになっております。そこでその確認ということですが、最終の経歴が関西営業1課課長ということですが、間違いありませんでしょうか?

②Bクレジットカード会社のものです、当社に申込みがあった山田花子さんは貴社に在籍しておりますでしょうか?

お答えして良いのかどうか悩んでいます。どうすればよいのでしょうか?

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Comments

丸山 様

夏井です。

> 雇用情報関係になるのでしょうか?

採用予定の時点ではA社との間で雇用契約がまだ締結されていないこと,質問者の会社との間の雇用契約は既に終了していること,そのため,問題となる方はどちらの会社とも雇用関係にないことに留意することがポイントのようですね。

民法の基本の理解度を問う良い問題だと思います。

Posted by: 夏井高人 | 2005.03.28 at 16:03

丸山 様

夏井です。

この問題は,個人情報保護法の問題としてもおもしろいですね。

どのガイドラインが適用になるのでしょうか?

過去に在籍していた元従業員または将来従業員になるかもしれない候補者は,いずれも現時点では何ら労働関係がなく,当該事業者との間では法的には無関係の人間です。
したがって,このような元従業員(従業員候補者)について,労働関係の存在を前提とする雇用関連のガイドラインが適用されるとするのは筋違いでしょう。
もし適用されるとすれば,まだ一度も就職したことのない者の個人データすべてについて(従業員候補者として)雇用関連のガイドラインが適用されるのでなければ一貫していないことになりますが,それは明らかにおかしい。同様に,過去に従業員として雇用された経験を有する者の個人データすべてについて(元従業員として)雇用関連のガイドラインが適用されるのでなければ一貫していないことになりますが,これまた明らかにおかしい。仮にガイドラインに「適用される」と書いてあったとしても,それは無効だと解するべきでしょう。

他方で,仮にこのような者について厚生労働大臣が主務大臣になるのだとすれば,労働関係のない事項に口出しすることになってしまい,要するに他の省庁の所管業務との関係もありますが一般的には越権行為になるのではないかと思われます。

となると,もしかすると,理論的には主務大臣の存在しない領域に属する個人データであることになるかもしれませんね。

一般的にすべての個人情報について適用される法律を制定しておきながら,プライバシーコミッショナー制度を導入せず,事項や業務の種類毎に主務大臣を決めるというやり方を採用してしまった以上,このような真空地帯の発生は避けられないことですね。外国の法制度の切り貼りのやり方が根本的に間違ってしまっているので,しょうがないです。

Posted by: 夏井高人 | 2005.03.29 at 10:05

夏井先生、コメントありがとうございます。越権行為に該当するかどうかは設置法を見なければなりませんね。しかし、抽象的に書いてたりするからなぁ・・・。
 ところで、厚生労働省の「雇用管理に関する個人情報の適正な取扱いを確保するために事業者が構ずべき措置に関する指針」では、「雇用管理に関する個人情報(企業等が労働者等の雇用管理のために収集、保管、利用等する個人情報)を取り扱う者」が対象となっていますね。
 労働者等には
①労働者(実態的に賃金が支払われる者)
②労働者になろうとする者(応募者)
③労働者になろうとした者(過去の応募者)
④労働者であった者(退職者)
があるようですね。

 この考え方は、文部科学省の「学校における生徒等に関する個人情報の適正な取扱いを確保するために事業者が講ずべき措置に関する指針」における「生徒等」でも採用されていますね。

Posted by: 丸山満彦 | 2005.03.29 at 12:26

丸山 様

夏井です。

ガイドラインは,たしかにそのように書いてありますね。

でも,下記のカテゴリーに属する人は「雇用」とは関係ですね。これらの者との間では,現時点では「雇用」が存在しませんし,これらの者に対し事業者が使用者として行動すれば,それは違法行為になることが多いでしょう。

 ②労働者になろうとする者(応募者)
 ③労働者になろうとした者(過去の応募者)
 ④労働者であった者(退職者)

雇用とは関係なく,別のカテゴリーを造ったほうが合理的だと思います。

主務大臣制を導入したので無理やり厚生労働大臣の主管にしたのでしょうが,それは理論的にも実務的にもおかしなことではないかと思います。

とはいえ,事業者としてはこのガイドラインに一応従うということになりそうですね。

しかし,その場合のポイントは,ガイドラインだけにしたがっていると間違ってしまうということです。
この場合でも,民法,商法及び刑法等の基本法規や社会保険関係の特別法など関連法令,そして,当該事業者の業種に適用される特別法等の解釈・運用のすべてに精通した弁護士のアドバイスを受けないと,とんでもない大間違いなポリシーをこさえて運用してしまうことになりそうです。

 

Posted by: 夏井高人 | 2005.03.29 at 12:51

夏井先生、コメントありがとうございます。②③④は雇用関係にはないんですよね・・・。③なんて、かなり遠いような気がします。
 ところで、この厚生労働省ガイドラインですが役員は対象外ですね(雇用関係ではないので・・・)。使用人兼務取締役は使用人部分だけ対象が対象となるんですよね・・・

Posted by: 丸山満彦 | 2005.03.29 at 14:21

●ガイドライン
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/kojin/gaidorainkentou/koyou.pdf

第二 用語の定義

法第二条に定めるもののほか、この指針において、次の各号に
掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一事業者法第二条第三項に規定する個人情報取扱事業者のうち
 雇用管理に関する個人情報を取り扱う者をいう(第四に規定
 する場合を除く。)。
二労働者等前号に規定する事業者に使用されている労働者、
 前号に規定する事業者に使用される労働者になろうとする者
 及びなろうとした者並びに過去において事業者に使用されて
 いた者をいう。

●ガイドラインの解説(案)
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=495040141

「労働者等」の「等」には、「事業者」に使用される労働者になろうとする
者及びなろうとした者(現在及び過去における採用応募者)や、退職者が含
まれる。事業者は、現に雇われている者のみならず、採用応募者や退職者の
個人情報についても、適正な取扱いを図らなければならない。


となっている以上、(法学者ではなく)事業者の立場としては、仮に雇用関係がなくても「雇用管理に関する個人情報」として扱うしかないのだろうなぁと思います。


> これらの者との間では,現時点では「雇用」が存在しませんし,
> これらの者に対し事業者が使用者として行動すれば,それは
> 違法行為になることが多いでしょう。

その通りですが、逆に無理やりでも使用者として位置づけておいてもらわないと、このガイドラインで書かれている制約の網から漏れて、事業者側の好き勝手に扱われてしまう可能性があるので、個人の立場としては嫌ですね・・・。

このガイドラインは「使用者」に対し、個人情報に関する取り扱いを厳しくさせるものだと思いますので、一労働者としては、この場合の事業者は「使用者」として行動して欲しいです。(個人情報に関する取り扱い以外のことで「使用者」ぶって行動して欲しいとは思いませんが)

事例の①や②のケースで、もし事業者が「使用者」ではないとなると、外部からの問合せに対し、勝手に自分の個人情報を伝えたとしても、個人情報保護法上は問題ないということになってしまうと思います(夏井先生がおっしゃっているように真空地帯だと思いますので)。

もちろん、個人情報保護法上は問題ないとしても、民法上の責任は残りますので、民事的に責任を追及することはできると思いますが、自分の知らないうちに事業者から個人情報を漏らされてしまったことを知るのは後になってからでしょうし(事業者が自分の個人情報を漏らそうとしている時点で止めることができないですし)、雇用関係がない以上、前回の「頭の体操15」の事例のように「債務不履行」(雇用契約に基づく安全配慮義務違反)では訴えられず、「不法行為」で訴えるしかなくなってしまうのだろうと思います。

損害の発生や、その個人情報を漏らしたことと損害との因果関係、事業者の故意/過失・・・といった要件の立証のことを考えると、泣き寝入りが多くなってしまうのではないでしょうか?


夏井先生がここでおっしゃろうとしているのは、

> まだ一度も就職したことのない者の個人データすべてに
> ついて(従業員候補者として)雇用関連のガイドライン
> が適用されるのでなければ一貫していないことになりま
> すが,それは明らかにおかしい。同様に,過去に従業員
> として雇用された経験を有する者の個人データすべてに
> ついて(元従業員として)雇用関連のガイドラインが
> 適用されるのでなければ一貫していないことになります
> が,これまた明らかにおかしい。

こういった統一感/一貫性のない政策や法制度に対するいらだたしさなんだろうと推察いたしますが・・・。


Posted by: uzen | 2005.03.29 at 16:45

uzen 様

夏井です。

> こういった統一感/一貫性のない政策や法制度に対するいらだたしさなんだろうと推察いたしますが・・・。

ご指摘のとおりです。

というわけで,依然として「夏井説」は即時廃止全面改訂論なんですよ。

でも,そんなことばかり言ってもいられないので,解説を書いたり講演したり,いろんなことやってますが,やればやるほど矛盾だらけだということを感じます。

ところで,雇用関係にない者を雇用関係に準じて扱うことは,個人情報保護の観点からすればよいこともあるかもしれません。
しかし,事業者が勝手に個人情報を収集・利用してしまう良い口実を与えることにもなってしまう。

他の法領域への波及効果や副作用のようなものもよく考えて解釈論をやらないと,あとで泣きをみることになってしまいそうです。

Posted by: 夏井高人 | 2005.03.29 at 17:07

丸山 様

夏井です。

> ところで、この厚生労働省ガイドラインですが役員は対象外ですね(雇用関係ではないので・・・)。使用人兼務取締役は使用人部分だけ対象が対象となるんですよね・・・

ガイドラインの定義によれば,「労働者等」とは「前号に規定する事業者に使用されている労働者、前号に規定す
る事業者に使用される労働者になろうとする者及びなろうとした者並びに過
去において事業者に使用されていた者をいう」とされていますね。

この定義に従う限り,労働者として事業者(使用者)の指揮命令に従う者や,そうなろうとした者あるいは過去にそうであった者等が労働者等だということになりそうです。

ところで,日本の企業の場合,「役員」とは名ばかりで単なる従業員である場合もあるかもしれません。そのような場合にはガイドラインも適用になるかもしれませんね。

しかし,もっと重要なことは,日本の企業の多くでは,労働者から取締役等になる者が多いということです。労働組合の委員長から社長になっている人も少なくないです。
ということは,そのような人々は,ガイドラインとの関係では,過去において労働者であった者(つまり労働者等)として扱われなければならず,役員として扱ってはならないということになりそうです。それによってどんなにプライドが傷つけられても「労働者等」なわけです。

他方,株主,一般債権者,一般債務者等の個人データを業種のいかんを問わず一般的に保護するという面ではかなり不安が残りますね。

Posted by: 夏井高人 | 2005.03.29 at 18:25

夏井先生、コメントありがとうございます。「労働者等の雇用管理のために利用等する個人情報」が「雇用管理に関する個人情報」となるため、労働者等の個人情報がそのまま「雇用管理に関する個人情報」とはならないとガイドラインでは言っているように思いますが、一方で、【「雇用管理に関する個人情報」に該当する事例】として、労働者の氏名とメールアドレスであってもこれに該当するとしていますので、結局、労働者等に関する個人情報がそのまま「雇用管理に関する個人情報」となってしまいそうですね。となると・・・労働者等に含まれる元労働者であった役員のメールアドレスも「雇用管理に関する個人情報」と言えなくもないわけで、どこか矛盾が生じているのでしょうね。
 事例が悪いのでしょうかね・・・

Posted by: 丸山満彦 | 2005.03.29 at 22:25

丸山 様

夏井です。

やはり,カテゴリーの捉え方が悪いのではないかと思います。

「元従業員」と「従業員候補者」は雇用関係にないという意味で第三者と同じですから別のカテゴリーにすべきだったんでしょう。

ガイドラインの起案者は,もちろん,元従業員が現在では社長や株主であるような場合などぜんぜん想定していないわけで,その意味で想像力不足だと思われます。

現在従業員である者とそうではない者とをきちんと識別し,別の法律関係にあるということを明確に認識した上で,主務大臣と無関係に全部横断的なガイドラインを策定するのが本来の筋だったんでしょうね。

他のガイドラインとも矛盾するところが多々ありますし,今後が思いやられます。

Posted by: 夏井高人 | 2005.03.29 at 23:17

夏井です。

おまけです。

従業員候補者(採用予定者)であった者が,現在ではライバル会社の社長やライバル会社の重要な立場にある従業員になっているような場合,労働関係の法律問題だけではなく,いろんな問題が発生しそうですね。

このような場合を含め,複雑な法律問題を雇用関係のガイドラインだけで規律しようとするのは明らかにおかしいです。

Posted by: 夏井高人 | 2005.03.29 at 23:21

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