会社は誰のモノか?
こんにちは、丸山満彦です。情報セキュリティとはちょっと離れますが、会社は誰のモノか?という話です。最近、株式会社のガバナンス論、企業の社会的責任、企業の買収などの話が多いですが、このあたりは基礎的な知識として理解しておくべきでしょうね。で、会社は誰のモノか・・・
株式会社であれば、「会社は株主のモノである」としか言いようがない。
不祥事を起こした企業の経営者の中には、「会社は自分のものである」と思っている(正確には、「会社は自分の思い通りになる」と思っているのだが・・・)人がいる場合がある。「会社は従業員のものである」と思っている人もいるだろう。そして、企業の社会的責任、CSRなどに関わっている人は「会社は社会のものである」と思っている人もいるかもしれない。松下幸之助さんは、「会社は社会の公器」とおっしゃっていたが、それでも「会社は株主のものである」と思っていただろう。
会社(法人)というのは、まことに奇妙なものである。法人は契約を結んだりすることができるのでヒトである。銀行口座も作れるし、建物や工場も所有できる。一方、法人はモノである。株主は、明らかに株式を通じて会社を所有している。しかし、会社の所有物は株主のものではない。会社は株主のモノであり、会社はヒトとして建物を所有している。
会社は器であり、脳はない。脳は株主が選任した取締役である。
不祥事を起こした企業は、会社が悪いのではなく、取締役(又は経営者)が悪いのである。不祥事を起こした多くの経営者は、会社は自分の思いのままになるという全能感に支配されていて、会社が自分のモノであると錯覚してしまうのかもしれない。
社会的責任の文脈で考えると、企業の社会的責任というのは本当はおかしいのかもしれない。本当は取締役の社会的責任というべきかもしれない。又は、そういう取締役を選任している株主の社会的責任なのかもしれない。ただし、株主は経営の専門的な知識がないという前提なので、株主の社会的責任というのは、難しいのかもしれない。機関投資家というのは、専門性があるではないか?という意見もあるが、それとて、機関投資家に資産の運用を任せている個人に帰結するのかもしれない。このあたりは、私も整理がついていない。社会的責任投資というのもあるが、まだそれほどブレークはしていない。
企業の社会的責任を議論する前に、株主への責任は果たしているのか疑問の会社も多い。株主へのアカウンタビリティーを果たさず、株主に十分配慮しない企業で社会的責任を論じる経営者は、明らかに「本当の社会的責任を考えていない」だろう。そういう企業の経営者のいう社会的責任は「ファッションとしての社会的責任」でしょうね。非常に社会的に無責任かもしれませんね。
ある不祥事を起こした会社が、その建て直しの過程で、従業員に、「会社は誰のものであるか?」というアンケートをとった。中には「従業員のもの」とか、「社長のもの」と、答えている人もいたようであるが、ほとんどの人は「株主のもの」と答えていたようである。ちょっと安心である。
最後に、「会社は自分の思い通りになる」と思っている経営者は、思わぬことで足元をすくわれないように注意しなくてはならないだろう。「会社は株主のモノである」。
このブログの中の意見は私見であり、所属する組織の意見ではないことをご了承ください。
Comments
「環境・CSRと金融」というサイトを運営しています。
「会社は誰のものか」という問いかけを「企業市民である会社には何ができるか、何をなすべきか」と置き換えて考えたいと思う者です。
金融(おカネ)にフォーカスしてCSRを考える材料へのアクセスポイントとして活用していただけると作った甲斐があります。
ご来訪をお待ちしております。
Posted by: 伏木貴雅 | 2005.02.14 23:04
伏木様、はじめまして。実は、伏木様のウェブページは以前から存じ上げております。ちょくちょく使っていますよ。
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「会社は誰のものか」という問いかけを「企業市民である会社には何ができるか、何をなすべきか」と置き換えて考えたいと思う
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ということですが、そう私も思っています。
ただ、そういう風に思うのはいいのですが、でも現実には、会社は株主のモノじゃないの?といわれるとそうとしか言いようがないと思っています。
私は企業の社会的責任は会社の大小の規模を問わずあると思うんですよ。それは、ヒトが社会的存在であり、それぞれの立場で社会的な責任を負っているのと同じですね。多くの国民に対して大きな影響力がある政治家はそれなりの社会的責任があるでしょう。大企業であれば、その活動が社会に与える影響が大きいので、その社会的な責任は大きいと思います。それは、ある種当たり前の話だと思っています。
私は、アメリカの企業の内部を少し垣間見るチャンスがあったので思うわけですが、日本の企業で足らないのは、株主に対する責任ではないでしょうか?会社はそもそも株主のものである。というところから出発して、企業の統治(ガバナンス)はどうあるべきか?という議論が重要だと思います。そして企業は何よりも儲ければなりません。そして、その儲けをどのように使う(分配する)のか?が社会的責任を考える上で重要なのではないでしょうか。それを株主のために使うのか?社会に還元するのか?雇用者に還元するのか?取引先に還元するのか?税金として国に還元するのか?が重要なのではないでしょうか?(もちろん、従業員が社会的貢献活動に参加するために休暇を多くとるというのも、この枠組みに含まれています。)
そういう背景があって、株主を配慮しない企業のトップというのは、社会的責任を本気で考えているのか?という疑問に思うわけです。株主対策=総会対策と思っている企業も中にはあるわけで、そういう企業が社会的責任なんて言葉を声にしていると、ファッションとしての社会的責任だ・・・と思ってしまいます。
Posted by: 丸山満彦 | 2005.02.15 13:54
丸山 様
夏井です。
おはようございます。
疲れで体調がひどく悪く,今日の会議もキャンセルして休もうと思っていたら,地震で起こされてしまいました。
なんともはや・・・
さて,企業の社会的責任の話題ですが,法令遵守に含まれるべき事項が「社会的責任」という用語で曖昧にされてしまう危険性を危惧しています。
たとえば,株主と株式会社との関係を例にあげると,会社は,株主に対して商法上の様々の義務を負っています。これは法律上の義務であり社会的責任ではありません。
株主が企業としての会社の所有者であることは世界中すべての法学者と弁護士と裁判官が承認していることです。株主は株式会社の所有者としての権利を有しているのであり,株式会社がその権利に対応する義務を履行しなければ,それは違法行為です。仮に社会に対して何らの影響を与えない行為であったとしても,違法行為は違法行為であり,是正されなければならないし,そのような違法行為に関与した者(取締役等)は,処罰されなければならなりません。
別の例で,取締役等は,会社に対して,商法その他の関連法令に定める義務を負っています。これも法律上の義務であって社会的責任ではありません。そのような義務違反行為があれば,仮に社会に対して実質的な悪影響を何ら及ぼすことがなくても法的には非難されなければならないし,場合によっては背任や横領等として刑事責任を負わなければなりません。
会社が他の者と契約を締結し,その契約に基づく義務を負っている場合には,その契約上の義務も明らかに法的義務です。様々な業法等による行政規律が存在する場合には,そのような行政規律も法的義務です。
また,単なる社会的責任のように思われがちな取締役の忠実義務等も商法上の義務であり,曖昧なものではありません。また,「信義誠実の原則」も民法及び商法の根本原則であり,法的義務として理解されるべきです。
このように,「社会的責任」という文脈の中で語られることの多くは法令上の義務または法的義務に属することが多く,それに違反する行為は違法行為です。
以上のような認識を踏まえ,いわゆる社会的責任と呼ばれるものの中から法令上の義務や契約上の義務などに属するものを控除した残りの中からさらに社会的責任と呼ぶのがふさわしいものを探し出す作業こそが真に生産的な作業ではないかと思います。
私は,古いカテゴリーを墨守することには大反対の立場です。しかし,「法的責任」は明確に区別して考えるべきだと思っています。曖昧にしてはいけないと思います。
とは言っても,日本の場合,設立時に形式的に商法を遵守したように見せかければよいと考えている経営者が少なくないので,最初から法令順守を実行する気がない場合もあるのでしょう。そういう連中に対して法令順守を期待することはできず,まして,社会的責任について考えろと求めても空しいように思います。
形骸化しており商法等の法令を遵守しない会社は,職権でどんどん解散させることができるような法制整備も必要ではないかと思います。
「法人」という「かたち」をビジネスで利用することについての事後審査が必要だということでまとめることができるのではないでしょうか?
Posted by: 夏井高人 | 2005.02.16 05:50
夏井先生、コメントありがとうございます。
社会的責任という言葉はあいまいに使われていると思います。法的責任についても社会的責任の一部とする場合もあれば、社会的責任を法的責任を超えたものととらえる場合もあるようです。
法的責任を超える部分を社会的責任とすると、私は社会的責任という言葉を口にする前に法的責任を果たすべき企業が多いのではないかと思います。この点は、夏井先生と同じ思いです。
特に一般の株式会社は商法上の設立要件を満たせばかなり自由に設立することができます。このような便宜を図っているのは、株式会社が社会的にも意義があると認めているからでしょう。法人は法律によって人格を与えられているわけだから法律違反を繰り返して行うような会社は法人格を剥奪するというのもあり得る理屈ですね。
私は、多くの企業が法律違反をしている状況を知っています。時には、それは・・・という状況の場合もあります。でも、そういう企業であってもCSR報告書を作成していたり、我が社のCSRへの取り組みなんてウェブページを作っていたりします。そういうファッションCSRのようなことはやめてほしいし、それを気付きながらコンサルをするコンサルタントも悪質ですね。
こういう企業広告としてCSRに取り組む企業や、それに乗じるCSRコンサルタントが跋扈する限り本当のCSRというのが広まらないのではないかと危惧しています。
Posted by: 丸山満彦 | 2005.02.16 18:26
丸山 様
夏井です。
どうも体調が回復せず,苦しんでおります。
さて,社会的責任の話題ですが,丸山様はすでにご存知のとおり社会的責任それ自体を否定しているわけではありません。
ただ,特別に法人格を認められる組織体として,法定の要件は充足し続けなければならないし,適法な経営をしなければならないことは当然の前提になっておりますので,そのことをごまかすために社会的責任という用語で曖昧にされてしまうことに対する危惧感をもっているわけです。
この点は,丸山様もご指摘のとおりです。
そのような法令上の義務を十分に尽くしているという前提でのことですが,企業は,もっともっと社会に貢献すべきでしょう。もちろん,利益をどのような使途に用いるかは株主総会で承認された経営者の判断によるわけですが,その判断内容が自己の役員報酬の増額やら何やら利己的なものばかりでは困るということに尽きるのではないかと思われます。
会社が会社として存立し得るのはまさに社会の中に存在しており,社会の中の誰かが顧客になっているからにほかならないわけで,真に顧客を大事にするという気持ちさえあれば,何をすることが社会的責任を果たすことになるのかを判断することもそう難しいことではないのではないかと思います。
少なくともCRMを導入することではないですよね。(笑)
Posted by: 夏井高人 | 2005.02.16 19:05
夏井先生、コメントありがとうございます。私も夏井先生と同様、企業が社会的責任を果たすことについて非常に期待しています。
企業は、通常の人以上の影響を社会に及ぼしうるので、本当に企業がよき市民となれば社会もよきものになっていくと思います(何を「よきもの」とするかという問題は依然残りますが・・・)。
トヨタ自動車をはじめ日本の自動車メーカーが環境負荷の少ない自動車を製造するようになり、それが社会に受け入れら、世界的なトレンドとなっていきましたね。米国の自動車メーカーですらハイブリッド車を製造すると言い出してきているわけですからこれはすごいことです(元デトロイト住民の素直な感想)。
ただ、私や夏井先生の主張は、社会的責任という曖昧で聞こえのよい言葉を使って、企業の法的責任を曖昧にしてしまうことに対して危惧しているということです。一般に社会的責任を果たすという内容のほとんどは法的責任であったりするわけです。
また、はやりに乗じて企業のイメージ戦略としてCSRを利用しようという企業、それに「乗じて」儲けようとするコンサルタントが存在すると、本当の意味での社会的責任、CSRが社会的に拒否されかねません。
法的責任も果たし、それ以上の社会的責任を果たそうとしている誠実な企業の努力が報われるようにするために、偽者は市場から退場してもらいたいと思っているわけです。
Posted by: 丸山満彦 | 2005.02.17 09:05
丸山 様
夏井です。
おはようございます。
> はやりに乗じて企業のイメージ戦略としてCSRを利用しようという企業、それに「乗じて」儲けようとするコンサルタントが存在すると、本当の意味での社会的責任、CSRが社会的に拒否されかねません。
同感です。
昨日,某出版社から取材を受けました。その取材の中でも詐欺的なコンサルタントについての話題が出ました。
どうやったら詐欺的なのかまともなのかを見分ける方法を教えてほしいとも言われました。
いろんな尺度があり得ると思います。
CSRコンサルタントについては,①法的責任とそれ以外の責任とをきちんと分けて説明できること,②法的責任についてはその根拠や理由などを即座にわかりやすく説明できること,③法的責任は広い意味では社会の中の責任ではあるけれども「社会的責任」の中にくくりこんで曖昧にしてしまうことのできないものであること,④法的責任以外の責任については,それが法的責任でないことの根拠を正しく説明できること,⑤法的責任以外の責任について,それが「責任」と呼ばれる根拠や理由などを明確に説明できること,そして,⑥これらの責任を果たすための方法について説明できること,以上がまともなコンサルタントであるかどうかの識別基準のひとつになると思います。
なお,⑥については,相談内容により,弁護士でなければ扱ってはいけないものが含まれているので,弁護士でないコンサルタントの場合,良い弁護士と提携しているかどうかもまともなコンサルタントであるかどうかの識別基準になるかもしれません。企業会計がらみの問題にしても良い公認会計士と提携関係にあるかどうかということが識別基準になり得るでしょう。
詐欺的なコンサルタントの特徴を列挙したいところですが,誹謗中傷だと言って攻撃されてしまう危険性があるので,やめときます。
Posted by: 夏井高人 | 2005.02.18 07:51